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コヤニスカッツィのみやびのレビュー・感想・評価

コヤニスカッツィ(1982年製作の映画)
4.4
本作は文明批判映画として有名な三部作の第一作目。
現代社会の物質主義に対する警鐘がテーマとなっており、当時としては画期的な表現方法や美しい都会の映像で、人間社会が強く依存してきた創造と破壊が描かれる。

本作品には一般的な映画に存在するはずの物語が存在しない。
ここで描かれる物語とは、人類の発展と滅亡といった物語である。
だから主人公などのキャラクターは存在しないし、台詞も無い。
ナレーションも無い。
本作が映すのは人間の営みそれだけ。

無限に広がる大地、流れる雲、雄大にうねる海。
やがて、大地に人間が現れ始め、文明の象徴といえるニューヨークの大都会に目が向けられる。
目まぐるしく高速道路を車が走り回り、都会では人が行きかう。

カメラを見つめる人。
睨みつける人。
微笑みかける人。
視線を逸らす人。
裕福な人、貧乏な人。
男性、女性。
忙しない映像の中で描かれる様々な人間の姿は、文明が生み出した光と陰りを表しているかのようで、環境問題だけではなく社会格差への皮肉も込められていると考えられる。

自然の中で人間は生きているはずだった。
増殖、移動、生産、消費、破壊。
これらが長編のタイムプラスで表現されることで、人間の生み出すスピード感が伝わってくる。
自然が何万年何億年かけて作り上げた物を人間はほんの一瞬で使い込み、終いには破壊してしまう。
自然の力を超越してしまった人間が私利私欲のまま満たされることだけを追い求めるその先にあるものとは。

本作は現代社会への警鐘と共に、観る者に俯瞰的な視点での体験という形を提供している他には無い珍しい映画だった。
まるで旅行しているかのように様々な場所や人間を追って行く映像には目が釘付けになって一度も飽きることなく楽しめた。

余談だけど、タイトルの『コヤニスカッツィ』はアメリカ・インディアンの部族のひとつであるホピ族のことばであり、

1. 常軌を逸した人生
2. 混乱した社会
3. 平衡を失った社会
4. 崩壊する社会
5. 他の生き方を脅かす生き方

といった意味があるそう。
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