かたゆき

エターナル・サンシャインのかたゆきのレビュー・感想・評価

エターナル・サンシャイン(2004年製作の映画)
5.0
近未来。
最新の脳外科手術と催眠療法によって、失恋の辛い記憶を綺麗さっぱり消してくれるベンチャー企業が現れる。
心の傷を癒してほしい人々がそのサービスに殺到するなか、酷い別れ方をした元カノとの思い出を引きずる主人公もその一人。
こんなにも辛い思いをするくらいなら初めから付き合わなければよかった――。
そんな思いから、彼は元カノとの出会いから初デート、告白の日や初めてのお泊り、諍いが絶えなくなった倦怠期、そして辛く切ない別れの日までをきれいさっぱり忘れてしまうことを決意する。
そうして迎えた施術当日。
物語は、そこから彼の次第に消されてゆく記憶の中を遡るように展開してゆく。
消されて当然と思える酷い記憶が続く中、やがて彼は忘れていた彼女との素晴らしい思い出を発見するのだった。
「待ってくれ!この記憶だけは残しておいてほしい!」
全身麻酔を掛けられた彼の訴えなど当然、スタッフに伝わるはずもない。
どんどんとデリートされてゆく記憶の迷路の中で、彼と恋人との素敵な思い出を守るための冒険が始まる……。

こんな突拍子もない設定を思いついただけでも凄いと思うのに、この映画はその設定を最大限活かし、とてもシュールで前衛的で、そしてとても切なく美しい映画に仕上がっている。
素晴らしいとしか言いようがない。
良い思い出だろうと悪い思い出だろうと、今の自分を形作るものはやっぱり積み重ねてきた記憶なんだ。
というありがちなテーマから始まって、やがて世界を認識するのは自分の自意識であり自らの認識さえ変われば、この世界自体も変わってしまうという深淵な主題さえ捉えている。
まさに「われ思うゆえにわれあり」。
なんと言う才能。
でも、ちゃんと恋愛映画としての軸は1ミリもぶれてない。
これは失恋を経験した全ての人に捧げられた、才気溢れるラブストーリーの傑作だ。

ちなみに自分、歴代の元カノの写真は全部残している。
だってすべて素晴らしい思い出だから(笑)。
かたゆき

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