半兵衛

デッドエンドの半兵衛のレビュー・感想・評価

デッドエンド(1937年製作の映画)
4.0
どんなに頑張っても貧しさやその息苦しさから逃れられないスラムの世界を舞台に、大学を出ても職にありつけない主人公の青年や元来は真面目なのに貧しさゆえに不良グループに入り、偶然持っていたナイフで金持ちを斬りつけて警察に追われる少年の苦しみが描かれる。リアルに作られたニューヨークの貧民街のセットや、場末感を醸し出す役者陣の好演により見るものに重くのし掛かってくる。特に不良少年たちの演技は一瞬本物かと思ってしまうほどの生々しい純粋さと狂暴性を見せて、1930年代のアメリカの裏側を覗かせる。

そんな殺伐な世界にいるため、主人公と恋仲にあるはずのヒロインのシルヴィア・シドニーはスラムからの脱出と一戸建ての家に住むために金持ちと結婚しようとする。そしてその主人公もそれにさして絶望するわけでもなく、別のヒロインに誘惑されて街を抜け出そうとする。このリアルな息苦しさは見ていて切なくなる、そしてそんな夢を叩き潰すリアルな現実の残酷さに溢れる後半の展開。でもだからこそラスト、絶望的な中で手を取り合う主人公とヒロインに感動する。

ただ正直メインの話よりも悪役であるボギーの話の方が好きだったりする、体の芯まで悪党に染まったはずなのに、故郷に残した母親や初恋の女性と逢おうとする純情さ。だが母親には罵倒され、初恋の女性の変わりように愕然としたりと現実を見せつけられショックを受ける繊細っぷり。だからこそうちひしがれたはずのボギーが開き直って故郷で悪事を働こうとするときの嬉々とする姿の怖さや酷薄っぷりが、ダーティーな魅力を一層はなつ。そんな彼を止めようとする顔馴染みであった主人公との銃撃戦は、ニューヨークの湿った空気と闇の暗さに満ちたノワールっぽい名シーンに仕上がっている。
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