尋常ならざる傑作。ヤスミン・アフマド監督による群像劇です。劇場で泣いてしまったのは本当に久しぶり。何の前提知識もなく観た方がいいです。スポイラーにならないようにレビューします。
タイトルとなっている「タレンタイム」は学校のタレントコンテストです。その参加者や家族を描いていきます。マレーシアの人たちらしく、最初はユーモラスです。イギリス系マレー人のムルー(ピアノ)、インド人のマヘシュ、マレー系のハフィズ(ギター)、中華系のカーホウ(二胡)。それぞれが何か痛みを抱えていることが徐々にわかってきます。やっぱり他人のことって分からない。だから誤解もするし、傷つける。失われたものは戻らない。でも、人生は続いていく。そんな映画です。
テーマは「優しさ」でしょうね。ボクが住んでいたシンガポールもそうですが、マレーシアもいろんな人種がいます。住んでいる人たちが優しくないと、国自体が成立しないと思う。ボクは9年住んでいたからそう思います。それを反映した、すごく優しい映画です。残酷なんだけど優しい。人生って残酷ですよ。でも、ちゃんと優しさは残されている。それを「希望」と言えるのかは分からない。だって、人生は簡単に「希望」を口にするには残酷すぎる。それでも、この映画はその残酷さを優しく包み込んでくれます。ちゃんと笑いもある。
本作はヤスミン・アフマド監督の脚本ですが、アフマド監督は卓越したストーリーテラーだと思います。群像劇なので多くのキャラクターが登場してきますが、それぞれちゃんとキャラクター造形ができている。脇役のムルーの妹たちですら、ちゃんと個性が描かれている。最初はわからなかったことが徐々に明らかになっていく。そして、人物描写に深みが加わってくる。上手い。
本当に久しぶりに観た完璧な映画だと思います。これ、2021年3月にDVDが発売されますが、レストアしてBDで出してくれないかなあ。