たく

男はつらいよ 口笛を吹く寅次郎のたくのレビュー・感想・評価

-
寅さんシリーズは昔に集中して全作品観だことがあって、中でも一番良かった本作のレビュー。

2009年11月鑑賞。
...................................

マドンナは竹下景子。
これは傑作!
実に丁寧に作っていて、上映時間はいつもと同じくらいだけど内容が濃い。 前作が良くなかっただけに、ものすごい差を感じた。 全体的に丁寧に作っていることと寅さんの演技の細やかさが、他の作品に比べて強く感じられた。

寅さんシリーズには「リリー登場回」という高き峰があるけど、本作はそれを凌ぐ傑作かもしれない。
冒頭の夢のシーンは珍しく「とらや」の風景で、いかにも夢らしい作りで時間も短く、すごく良かった。主題歌の前口上がいつもと違うセリフなのには驚いた(もう何て言ってたか覚えてないけど..)。 最初の「とらや」のシーンで博と社長が喧嘩するところは経営の現実として身につまされる問題であり、その緊張感に見ててハラハラした。

今回の寅さんは前半で実家に帰らず、岡山で博の父の墓参りに寄った偶然から寺に住み込むことに。初日に寺に泊めてもらい、翌朝帰ろうとする寅を引きとめる朋子を説得する寅さんの弁舌が最高。そこに急な法事の依頼が入り、二日酔いの和尚に代わって法事を立派に務めあげた寅の評判が良い。
このあたりのいきさつの描き方がすごく丁寧で、寅が和尚になりすました演技も面白く、見ごたえ充分。 若き竹下景子の柔らかい雰囲気は、さすが「お嫁さんにしたい女優ナンバー1」の魅力に吸い込まれる。

さくらと博が父の法要で岡山まで出向き、そこで和尚になりすました寅に会う演出の面白さ。寅が部屋の外に出てさくらに弁解し、情けなさMAXのさくらが涙をこらえつつ..というあたりの演技が素晴らしい。
書き出したらキリがない。今回は味が濃くていいねー。

さらに、サブエピソードとして登場する中井貴一と杉田かおるの恋の顛末も、二人の演技力が輝いて作品に魅力を添えている。 中井貴一は、こないだ観た「風のガーデン」が素晴らしい演技だった。 それに比べて本作は若くて未熟な感じだけど、それは当然だし役どころにはぴったりだ。

寅が朋子の本心をお風呂越しの和尚の口から聞かされてしまう演出には、思わず「うますぎる!」と心で叫んでしまった。 戸惑う朋子と目があってうろたえる寅の表情など、絶妙すぎて天才としか言いようがない。
その後、うつろなまま柴又に帰る寅の演出の良さは、前作で無意識にウォークマンを盗んでしまうという陳腐な描き方とは雲泥の差だ。 最後、朋子の見送りの電車のホームで寅さんと朋子の緊張感あるやりとりには胸が締め付けられる。
勘違いだと寅が否定するのは八千草薫の時と同じで、何てもったいないこと! でもまあ「それが渡世人のつれーところ」。
自分としては、寅さんの代名詞的な「それを言っちゃあおしめえよ」よりは、このセリフの方が寅さんの本質を突いていると思う。
たく

たく