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バッド・ルーテナントのhasseのレビュー・感想・評価

バッド・ルーテナント(2009年製作の映画)
4.2
演出4
演技4
脚本5
撮影4
照明4
音楽4
音響4
インスピレーション4
好み5

○「魚は夢を見るのか?」(テレンス・マクドノー)

ロバート・イーバートやカイエ誌が2009年のベストに推していて、ただのアクション映画じゃないんだろうなと思って観たが、確かにその通り。

ハリケーンは陸地と水域の境界を曖昧にし、ドラッグは現実と幻想の境界を曖昧にする。その結果あらわれてくるのがヘビ、ワニ、イグアナといった水陸両生の爬虫類たち。
まるでダリの絵画のように、本来そこに存在するはずのないものが当たり前のような存在し、カメラ前の空間を独占する。
ドラッグ、ギャンブル、恐喝、贈賄、報復にまみれたテレンスの生活は崩壊スレスレの異常事態に陥っているが、ギャングのボスに取り入って15000ドル稼いだあたりで全ての問題がトントン拍子に解決し、異常が取り除かれていく。まるでハリケーン災害後の復旧のように。
陸地と水域の線引きが復活した世界で、彼はかつてハリケーン時に命を救った男とともに水族館に行き、ガラス越しの魚を見て乾いた笑いを浮かべる。
彼は昇進し、美しい女性と結婚し、家族と円満な解決も果たしたわけだが、そんな平凡な陸地の生活では物足りない。だから、陸地の様相をデンジャラスに変容させる水とそこに生きるものに憧憬のような感情を抱くのだ。
自らを破滅させかねないものへの憧れは止められない。テレンスはこれからも時に正しいことを成し、時にドラッグやギャンブルに手を染める、そんな生活を繰り返していくのだろう。
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