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君とボクの虹色の世界のKのレビュー・感想・評価

君とボクの虹色の世界(2005年製作の映画)
5.0
プラダの青山店でやってるミランダ・ジュライの個展に行った。ピカピカした未来的な外観に不釣り合いな心許ないエレベーターで6階に上がると真っ暗闇に着いた。受付担当の若い男性がひとりポツンと立っていた。まるで『千と千尋の神隠し』のカオナシみたいに。黒いスーツを着て、黒髪のポニーテールで、前髪は綺麗に揃っていた。闇の中で逆三角形の端正な顔だけがぼんやり浮かび上がっていた。言われるがままに、私たちはスマホで会員登録した。「ミランダ・ジュライは、私のようにプラダに縁がない人間が、個人情報と引き換えに自分の展示を無料で見ることについてどう考えていると思う?」「そんなどうでもいいこと、知らされないんだよ、本人には。」「ああ、そうかもね。」「この設営にも来てないよ。」「まあ、そうだよね。」「たぶん世界中で同じようなキャンペーンをやってるんだよ。」「新刊を売るためにね。」ひそひそ悪口を言いながら今出てきたエレベーターの反対側に回ると10畳ほどの狭い空間に6枚の縦型ディスプレイが並び、映像が映し出されていた。東京初個展ってたったこれだけか。拍子抜け。無料だから仕方ない。それにしてもやけに静かだ。雑につけられた効果音が直接、脳に響く。何かの間違いで突然宇宙に放り出されたらこんな感じなんだろうか。「あれ、受付の人、消えたかな?」「いや、いるでしょ。」彼は柱の向こうで気配を消している。お兄さんに聞かれないように私たちはひそひそ感想を呟いた。ひとしきり映像を見てまたぐるっとお兄さんのところに戻ってきた。「みなさん『なにこれ』って言って一瞬で帰ってしまわれるんですよ。こんなに長い時間ご覧になられた方は初めてです。いかがでしたか?」スマホで時計を見ると40分くらい経っていた。マニュアル通り真っ直ぐこちらを見つめながら感想を聞いてくれる優しいお兄さんのおかげで、やっとその時、自分がひとりぼっちだと気づいた。
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