ななし

ゼロの焦点のななしのレビュー・感想・評価

ゼロの焦点(1961年製作の映画)
4.0
原作既読。けっこうなページ数があったはずだが、90分ちょっとでまとまるのかよと思っていたら、脚本の整理と超絶テンポの良さのおかげで、見事におさまっていた。慣れるまで最初のほうはあまりの早さに面食らうほど。

結婚して1週間の夫・鵜原憲一(南原宏治)が金沢への出張の途中に失踪する。妻の禎子(久我美子)は会社の人間とともに金沢へ赴き、夫の足跡をひとつずつ辿っていくが──。

東京と金沢での夫の二重生活が徐々に明らかになるパートは謎を謎を呼ぶ構成で、松本清張の原作ではじっくり描いていたと思うが、前述のテンポの良さで一気に見せていく。そのぶん謎解きとしての興趣はやや薄い気もするが、映画としては飽きさせないスピード感でよし。

夫が金沢でべつの人物として自殺したことが発覚したあと、事件はいちど幕を閉じ、その後の禎子の再調査によりすべての真相が一気に暴露される。ミステリとしてのフェアネスを重んじるのなら、禎子が真犯人の存在に気づくに至る登場人物のある行動は事前に提示しておかねばならないが、そうすると物語の劇的さが失われてしまうのでその辺りはいたしかたないか。

真犯人の動機は現代に生きる我々からするとなかなか理解しづらいところもあるが、戦後日本の焼け野原からの呼び声が聞こえてくるようで、ラストシーンには感じ入るものがあった。

冷静に考えたら、「ぜんぶ憲一の二股がわるい」だけの気もするが、たしか原作ではもう少し彼のキャラクターを掘り下げて、進駐軍向けの売春婦(いわゆる、パンパン)への同情的な眼差しがあった気がする。というか、そこがないとただの浮気者の話に見えないでもない。

それにしても、主人公の禎子とはべつの思惑で動きまわる夫の兄の鵜原宗太郎(西村晃)が異様で有能で笑ってしまう。
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