松浦義英

激動の昭和史 軍閥の松浦義英のレビュー・感想・評価

激動の昭和史 軍閥(1970年製作の映画)
3.5
今まで何を思ったか、引越しの可能性を懸念して
家のネット環境をWiMAXにしていた。
でもあまりにも制限が多く、ついに固定回線に変えた。

ずっと昔には固定回線を引いていたのだけれど、一人暮らしをしたことを期に10GB速度制限がある持ち運び可能なルーターにハマってしまう。
…なぜか固定回線の最大のメリットである『制限がない』ことを忘れて、一人暮らし解消後も
「固定回線より持ち運び可能なルーターのほうがいい。
フットワークは軽くなるし、速度制限が実施されても我慢すればいい。その分安いのだから」と思っていた。
…でも猛反対にあって
ようやく固定回線に戻してみると…
↑に書いてることはフットワークの部分以外思い込みだった。
制限がまずない(物件によっては回線接続が集中しほんの少し遅くなることはあるらしいが)、
そのためルーターでかかっていた速度制限タイムの夜間でもノンストレスでネット可能、
価格はルーターも固定回線も横並びが多いが事業者次第では固定回線の方が安価。
…と分かった。

そのためガンガンこれからは時間が出来たらオンデマンドでも映画を見ていこうと思う。
思い込みって怖いよね。
ちゃんと事実検証することの大切さはすごいね。
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岡本喜八『沖縄決戦』の前の『激動の昭和史』。
冒頭、一部は作者の想像を加えたフィクションだとの注釈があり
いきなり226事件のダイジェストから始まる。
…ナレーションは小林清志。
…ちゃんと銃剣を刺したら血が出て、銃撃を受けたら弾痕が身体に付いてる。
もうこれだけで令和の日本とは違うとまざまざと見せつけられる。

鈴木貫太郎を殺そうとした時に奥さんが「老人ですからとどめはおやめ下さい」って言って重症で終わったんだよなあ…。
それがなかったら『日本のいちばん長い日』の流れにもなってないんだろうな。
凄いよね。
…ちなみにリメイク版はくそだと思います。
やっぱり岡本喜八版が映画としてもホンとしても素晴らしいと思う。

「この時代の陸軍は本当にもうねぇ…」
って言いたくなる程の映画。
でもここに学ばないとそれこそ政治的腐敗というかコントロールの怖さを今でも一般国民は理解出来ないんだろうなあと思うと
やっぱりこういう映画は必要だなあと痛感するよね。
それは日本だけじゃなく世界的にそうだよね。
でも、受け取る人によっては逆の影響もあって然るべきなのがメディアの怖さなんだけどね。

領土拡大なんて昔からどこの国でもやってたことだからある程度は許容できる気がしてくるんだけどそこにはやっぱり迫害された人達がいて、気付かずに酷い人間になった侵略側の人間がいて…
って思うとこの映画に出てくるような陸軍上層部の洗脳にも似た攻めの姿勢って怖いなあと思う。
結局、その結果が行き着く先は原爆投下だっていうのを知っているはずなのに
こういう人達が今の世でも時々いたりするのが怖いような仕方ないような…なんとも言えない気持ちになるよね。

ドイツ側の戦線を淡々とダイジェストで記録映像を流す場面のテンポの良さは凄い。
昔の映画人はすごいなあ…。
…日独伊三国同盟って学生時代習ったけど文字だと実感沸かないけれど映像で見せられると説得力が凄いな。
そりゃドイツの猛攻がどんどん伝わってきたら手を組もうと思うわな陸軍。
そして米英親善内閣を倒す為にクーデターを画策すると。
流れがとても分かりやすい。
…この時点で映画が始まって9分だよ?
凄すぎないかこの密度。

この映画では三船敏郎は海軍の山本五十六。
『日本のいちばん長い日』では陸軍の阿南惟幾。
団体の思想としては対立構造になっている二者を演じるんだから三船敏郎はやっぱり凄い役者なんだろうね。
同じような演技をしてるけど、でも同じ人物には見えないところが上手いよね。

真珠湾攻撃の流れもとってもわかりやすい。
山本五十六がなぜ対米の攻撃に協力するのかがわかりやすくサラっと描写されててちょっと感動した。
邦画のイメージってやっぱりだらだら説明だから(苦笑)
…アメリカから石油を貰えなくなってがんじがらめになっての真珠湾って、山本の心中を考えるともう…。
開戦草案をそれぞれの軍部に持って行って推敲してる時も海軍の上はなんとかして開戦に結びつく文を撤回しようとしてるのが見えてね…。
…その裏で「海軍は(開戦に)確かに同意してるんだな?」って上に聞かれた陸軍将校が間髪入れずに「はい!」って答えてて悲しくなったわ(苦笑)

ちゃんとブン屋の事も描いてて。
国民感情(と陸軍へのアピール)を考えて好意的な記事を書くことを求める上と、
それでも海軍のしてる事を信じて陸軍批判する書き手と、
速攻降ろされる書き手と…怖いなあこれなんだよなあ。
人の上に立つってこれなんだよなあ…。
ちゃんと見極めてほしいよな…。
結局は「毎日は陸軍の毎日でも、海軍の毎日でもない。読者の毎日です」って大逆転するんだけどね。
真実だもんな、勝つしかないわな。
もみ消されるんだけどさ。

開戦の意図をどうするかの一連場面。
海軍は「外交の見通しと欧州戦局の見通し次第で戦争をする場合もあるししない場合もある」と。
陸軍は「対米戦の準備をするならまず開戦かどうか決意を決めるべき」と。
…コロナウイルス関連の緊急事態宣言の扱いをどうするかの政府の動きと似過ぎてた。
全国規模で発出するか感染拡大が生じてる所だけにして順次追加していくかっていうやつね。
でもコロナと違うのは敵が見えてるか、敵がどうすれば収束すると見えてるか否かだよね。
…その後で案を天皇に提出した時の陸軍の迷走具合が凄かった。
ちゃんと「3ヶ月で集結する見込みはなんだ?以前もそのような事を進言したと記憶しているが4年も続いたじゃないか」って突かれていて…。
ここから更に陸軍はブラック化していくんだなあと思うとね(汗)
なすりつけ合いするんだもんな。

やっぱりこういう日本の戦争云々の作品を見る度に思うのは
教科書って結果論しか書かないから当時の軋轢が全く見えない怖さだよな。
こういった内情を描く作品に触れずにそのまま大人になる人も当然いるわけで。
海軍の話とか、反戦とか俺が小学校の時の教科書には全く載ってなかったもんな。
いや、載ってたのかもしれないけど少なかったんじゃないかなと思う。
それは学習を優先してるから仕方ないだろうし、詰め込める視点なんて言うのは小学生には知れてるとは思うんだけども。
でももったいないよなあと思うねえ…。

戦闘機が離陸する場面。
今みたいにランディング場面は撮らずに山中や港から飛び立った直後を特撮ミニチュアで再現してた。
明らかに地面すれすれを飛んでるからおかしいし、どう見てもミニチュアってわかるんだけど、
それが逆に上層部の焦りを象徴しているようでなんか迫るものがあった。
演出の勝利に思えるいい場面。

東条英機はめちゃくちゃ対米開戦に積極的だと思ってたけどそうじゃないんだね。
心の奥ではそうだったかもしれないけど戦闘を避けようとする天皇に絶対の忠誠を誓っていたのは驚いた。
要は陸軍がよろしくなかったわけだな、最終的には。

ハルノートで映画全体の雰囲気がガラッと変わるのがすごい。
東条英機も徹底的に叩き潰す勝利にこだわるあまり…一気にここから敗戦へと突き進む恐ろしさよ。
アメリカ大使館経由の大統領書簡の到着がギリギリで間に合わなかった場面の直後に真珠湾攻撃の場面を入れる悲しさよ。
英領シンガポールを攻略して祝勝ムード一色の日本。
…メディアや政権や声が大きい人にに踊らされる今の日本を想起して怖くなった場面だった。
ちゃんと『目』を持っとかないとね。

国民に向けてのラジオで海軍の猛攻を伝えつつ、画面はどんどん多くの戦艦がアメリカの力で撃墜される様を映す場面。
なんとなく原一男っぽさを感じた。
ここで最近第一線で活躍してる邦画監督の名前が出てこない恥ずかしさよ。
邦画界頑張ってくれー…。

山本五十六の戦死は『連合艦隊』で描いているのかな?
一度観たことあるけど全然理解出来なかったしまた観てみるかな。
アーカイブの国葬映像って貴重じゃない?初めて見たよ。

「新聞が事実を隠すようになったら、日本はおしまいだ」
「今はそういう時代なんだよ」
なんとも言えんセリフだよなあ。

ちゃんと市街戦?敵国の戦車部隊がサイパンにいる現地の一般日本人をガンガン殺して蹴散らす場面が入ってるのが凄い。
どちらかというとアーカイブ以外の特撮場面は少ないのに一気に引き込まれた。
ここは『沖縄決戦』に継承された空気感で凄いと思った。
…玉砕命令が出て軍人も一般国民も次々と自決するんだけど『沖縄決戦』に比べて悲壮感が少ないのが逆に怖い。
演出の徹底って怖い。
だけど東条英機は少なからず戦局を見誤った後悔はあったと。
そらそうだよな、ないのは人間じゃないもんな。
…でもそれなら後悔する前に突き進むべきじゃなかった。
まさにブラック企業。

神風特攻隊で死ぬ前の人の台詞が良かった。
これはフィクションなのかノンフィクションなのか。
組織って、そうじゃない成員がいても組織としての大義を無条件に信じてると見られがちだよな。
良いんだか悪いんだか。
…「新聞記者。
開戦の時には貴様ら何て言ってた?
シンガポールで大勝利した時には?
貴様らなんて言ってた?
"無敵皇軍だ""聖戦だ""万歳万歳"
"さすが東條さんだ""鬼畜米英撃滅だ"
そう言ったのはどこのどいつらだ!
日本中を好戦的にした、戦争好きにしたのは貴様らだぞ。
負け戦になったら"止めたほうがいい"。
たったそれだけのことを言ってなにが立派なことだ。
勝つ戦争ならやってもいいのか?
貴様らは"東條東條"。
勝ってる時にはべた褒めしやがって負けたことはみんな東條のせいにしやがる。
貴様らに責任はないのか?
勝てばいいというその考えが日本を、俺達の日本を滅茶苦茶にしちまったんだ!」
…そして原爆で終わりと。

うーん。
やっぱり岡本喜八版『日本のいちばん長い日』には負けるなあ。
次作の『沖縄決戦』に軍配上がるわ。

『シンゴジラ』を観終わった後と同じような感想かな。
この映画も右往左往する安住の地での東条英機メインだもんね。
あの映画も人間の動きメインだったもんね。
松浦義英

松浦義英