ヤスギコ

東京物語のヤスギコのレビュー・感想・評価

東京物語(1953年製作の映画)
4.8
笑う予定のないところで笑う。これはなんだろう。

・秒数の使い方。見ていて何秒だなとかはもちろん分からないのだけど、見ているとその秒数で笑うし、見える心象が確かにあった。

・大橋裕之のマンガにあるような何も起きてない「捨てゴマ」に似た余白が大事にされていた。小さい木製の屋上で体育座りする笠智衆、窓から見えるお婆ちゃんと孫の距離感、熱海の海の防波堤にちょこんと座っている夫婦、灯籠のそばに佇む老父……何も起きてないカットが挟まることで、なぜか人物と観客の心情が同期する。それが感動になっていた。何気ない無言のカットが捨てゴマであると同時に「決めゴマ」でもあるような。

・人間に当たり前にある"表と裏"、いや、というより、あえて横文字だけど、"TPO"によって鮮やかにヘンゲする人のおかしみが効果的に伝わってきて笑える。小津さんの映画はよくカメラの回し方など、演出技法のことが語られるけど、それはあくまで手段であって、その目的は「当たり前にあるけど普段は意識していない人間の本当の姿を浮き彫りにすること」にあるのかもしれない。

・老夫婦と血の繋がっていない紀子さんの人間としての実直さ・正直さが中心にあるストーリーではあるが、それを際立たせる周りの人たちの裏表の生々しさが、でもなぜか嫌じゃない。クスクスしちゃう感じ。気を抜いている時の人間はやっぱりおもしろいなあ、と思った。

・小津さんの映画は色んな作品の祖、と知人が言ったが、たしかにそれは分かる。ウェスアンダーソン、是枝さん、大橋裕之……映画だけじゃなくマンガにもその影響を感じる。脱線するけど、山田洋次監督が黒澤明の家に行ったら、黒澤さんが小津さんの映画を一人でじっと見ていた、という逸話も面白い。同じ時代に映画を撮っていた二人が対局の映画を作っていて、でも小津さんはマイペースに地味で細かい映画を撮っていた。言葉を使いすぎない日本的なコンテクスト文化を適切な方法で撮ってるということかもしれない。
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