Miver2

東京物語のMiver2のネタバレレビュー・内容・結末

東京物語(1953年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

午前十時の映画祭で観る事が出来ました。

老夫婦が尾道から東京へ子供達の元へ尋ねて行って、その場所で起こる出来事の数々にとても世知辛さを感じた。
すぐそばにいるのにその心の距離感は何処か遠くて、優しさはすれ違う。
そして会話する中でその横顔から感じるその表情からは様々な想いが心の中で渦を巻く。
淡々と描かれているように感じる物語の間というか、その行間は何処かヒリヒリしているようにも感じた。
そして時に物語の間と行間からは、とても深く豊かに感情が溢れ出したり滲み出たりしていた。

家族の話は親と子、兄弟、祖父母と孫と言った所で印象的な場面が沢山あった。
両親が遥々東京へ尋ねて来ても、自分の生活があって構うのも何処か面倒なのがしっかりと態度に表れていた。
そのせいで最低限のおもてなしをしようとしても、何処か雑なのが感じられる。
熱海に行った両親が寝床で想うその気持ちやその表情の複雑さに切なくなった。

お金を出して良い所に行きたい訳ではなく、子供達や孫達といろんな話をしたり、美味しい物を一緒に食べて一緒に凄く時間を共有したいだけなのだと思うのだが、それすら出来ない哀しさがその表情に表れていたと思う。

しかし物語を観ていて折角遥々東京に子供の元へと行ったのに、両親のあの居場所のなさには絶句した。
その前にお出かけが出来なくなって、祖母と孫が遊ぶそのシーンがとても印象に残っている。
祖母が孫を見て想う気持ちはこうやって会える嬉しさと、その姿を見れなくなるであろうその予感を感じる事で想いを巡らす感情が切なくて。
老いが深まって死が近づいて来ている事を感じているその姿から感じる寂しさがそこで感じられた。

あと先立たれたしまった息子の嫁が1人で生活する中で、お母さんが泊まって話すそのシーンがまたとても印象的に残っている。
お母さんが嫁に想う気持ちがとても強く深く伝わって来るのだが、その気持ちが全く重なり合う事はなかったように感じた。
そこはあえて言葉にはしないその気持ちが嫁の表情から滲み出ていて、その複雑さが胸を掻きむしって来る。

想う気持ちは人それぞれあるのだけれど、何処かすれ違ったり、時に押し付けがましくなっていて。
その心遣いは伝わるけども、しっかりと届く事はないように感じる…。

家族として、親と子として、兄弟として、その愛情と欲は満たそうとしても満たされる事はなく、その感情はなかなか一致せずにすれ違う。
離れて行く事はある種嬉しくもあるけども、寂しさも感じる複雑な気持ち。
理屈は分かってるのに、何処か割り切れない感情が露わになっていた。

最後の方の場面では、両親の娘の振る舞いがなかなかの冷酷ぶりで。
普通、あの所であんな事を言える神経が分からんなと思った。 
でもその後のあの終わり方はとても深い余韻を残してくれるので良かったな。
一つの終わりは迎えても、生きる限り生活は続く。
様々な事を受け入れながら、そこで生きる姿とその表情を軸にして描かれる物語がとにかく素晴らしかった。

淡々と描かれている物語だけど、家族や親子を巡るあのリアリティの凄まじさは昔も現在も全く変わらない普遍的な物なのだと実感出来た。
そして古き良きこの映画は美しさとある種の残酷さと裏腹で、優しさの裏で哀しみが滲み出たりする中で、その光景や感情から刃がギラついているようにも感じる。
だからこそ、絶対的な名作で大傑作な作品なのだと思う。
この普遍的な物語の輝きはいつまでも色褪せる事はないだろうな。
しかし今回初めて観た小津作品は、途轍もなく素晴らしい作品だったので、
他の作品もしっかり観たい所。
何よりも大きなスクリーンで観れて良かったです。
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