Iri17

東京物語のIri17のレビュー・感想・評価

東京物語(1953年製作の映画)
4.8
時代も国も越えて愛される映画というのはこういう映画のことを言うんだろう。『万引き家族』と共通するところがある。併せて観てください。

まるで老夫婦の傍にいるかのような錯覚に陥ってしまう映像表現が、戦後日本が失った家族の形を寂しげに映し出す。

子供達に会うために田舎から東京に来た老夫婦だったが、息子も娘も仕事が忙しくてまともに相手にしない。その接し方は邪険と言っても過言ではない。
優しくしてくれるのは戦争で亡くなった息子の奥さんだけ。
老夫婦は決して怒ったりする事なく「ええんじゃよ〜」と言うばかり。いや!よくないよ!おじいさんってこちらが言ってあげたくなる。モノクロの映像でもこれほど入り込めるのは小津の素晴らしい演出の賜物だろう。世界を作るとはまさにこう言うことを言うのろだろう。

おじいさんが心情を吐露したのは居酒屋のシーンのみだが、戦争を生き延びてくれただけでおじいさんは十分だったのだろう。
終盤、戦前の日本の精神(良かった部分)の死を象徴しているようで、『セールスマンの死』にも共通すると感じた。

最後まで貫いた笠智衆の優しい笑顔がこの映画に絶妙な侘び寂びを与えている。親の死にすら淡白になった戦後日本から取り残されたおじいさんの孤独な姿が忘れられない。
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