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狂った一頁のfujiのレビュー・感想・評価

狂った一頁(1926年製作の映画)
4.2
主人公は精神病棟の小間使い。彼は自分の虐待によって妻を狂わせてしまい、その贖罪として妻が入院している病棟で働くことにしたのだった。
ある日、主人公の娘が母に婚約の報告をするため面会に訪れ、父とも久々の再会を果たす。娘の婚約話はなかなかの玉の輿らしいが、母が狂人であることを理由に、結婚まで漕ぎ着けられずにいた。
娘の嫁入りを夢見る主人公は、とある計画を思い付く――

公開は大正15年、当時30歳の衣笠貞之助をはじめ、若き日の川端康成や円谷英二(英一名義)などそうそうたる製作陣が集まった、日本初のアバンギャルド映画である。
精神病棟や狂人のモチーフは『カリガリ博士』に影響されたものらしく、フラッシュの点滅や鉄格子と人影のコントラストなど、随所にドイツ表現主義的な表現が見られる。

作中で特に印象に残ったのは一番手前の病室の患者、舞踏病のように倒れるまで踊り続ける少女だ。中盤、一心不乱に踊る彼女の檻の前に大量の患者が押寄せ狂喜乱舞する。医者や看護婦が必死に止めるが、最早もみくちゃ状態である。
私はバレエ『春の祭典』と振付師ニジンスキーを思い出してハッとした。死ぬまで踊る生贄の乙女、生贄を讃え春の訪れに喜ぶ民衆、そしてニジンスキーに迫る狂気……。
狂乱は伝染し、狂気はじわじわと忍び寄る。患者たちと一体化する不気味な夢を見た主人公を、まだ常人であると断言できるだろうか。私にはできない。
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