えいこ

カポーティのえいこのレビュー・感想・評価

カポーティ(2005年製作の映画)
4.6
トルーマン・カポーティの繊細で無垢な物語が若い頃好きだった。孤独と寂しさと小さく弱きものたちへの愛。そんな一連の著作とは異色の「冷血」。その執筆の物語。

荒涼とした遠景のカットが折々に挿入され、トルーマンをはじめとする登場人物の表情のアップで物語は静かに進む。事件に興味を抱き犯人の心に踏み込み、ノンフィクション・ノベルに挑む作家としての業。殺人犯であるペリーと話をするうちに、孤独で怯える魂に共振していく人間としての幼い心。葛藤に揺れ動くフィリップ・シーモア・ホフマンの演技が繊細で素晴らしい。

静かに見つめるペリーの瞳に慄きながらも結末をつけたい冷徹な好奇心から出る狡猾な言葉。内向的な表情と甘ったるい特徴的な喋り方に危うさが溢れ、引き込まれていく。寄り添ってくれていたネルやジャックが着々と歩を進めていくことで、トルーマンは一層孤独を深めていく。

表玄関から出た者と裏口から出た者。刑務所でペリーとともに流したひと筋の涙。彼に同一化した孤独な作家トルーマンは、最後の涙でペリーとともに死んだ。

「冷血」はずっと読めずに本棚にある。今なら読めるような気がする。
えいこ

えいこ