みゅうちょび

幻の光のみゅうちょびのレビュー・感想・評価

幻の光(1995年製作の映画)
4.5
また大切にしたい作品が見つかった。

日本映画あんまり観ないので、恥ずかしながら是枝監督作品もこれが初めてです。

なんて愛おしい作品なのだろうか。

今はもう忘れられた昭和の風景もノスタルジックに美しい。

子供の頃、追いかけて引き止めようとした高齢の祖母。認知症気味だった祖母は、徳島に帰って死にたいと言った。まだ幼い主人公ユミコは引き止めきれず、そのまま祖母は戻らなかった。大人になり、貧乏ながら夫イクオと幼子と幸せに暮らすユミコだったが、ある日イクオは家に帰らず警察からの連絡で電車に跳ねられたと知らされる。

この映画って、この先は、ユミコが親しくしていたご近所から持ちかけられた縁談で、子持ちの男性タミオと結婚して、島での生活を淡々と過ごす姿を映し出すだけで、特になにも起こりはしない。

それこそがこの映画の素晴らしさなのです!

なぜあの時、自分はお婆ちゃんも、イクオも引き止めることができなかったのだろうか。
ユミコの頭の中にはずっとその思いが残る。

忘れられない。

地味だけれど、思いもよらず平穏な新しい生活。馴染めば馴染むほどに彼女中では、過去への想いが薄らいでいく。

忘れてはいけない。

なぜ死んでしまったのか?理由もわからぬまま、忘れてはいけないと言う強い抵抗。
イクオが不幸だったのか?自分が幸せに生きることは許されるのか?

自分だけ癒やされていくことへの恐れ。

けれど、彼女の生活は優しいタミオやタミオの父、タミオの娘、そして我が子に見守られてその幸せが彼女の中で大きくなればなるほど、彼女の心の隅にある想いが暗く影を作る。

ユミコの心の中の光と影を表すような、重く暗いトーンの中で優しさを放つ光の部分。

その光と影の世界がなんとも居心地良くて、ずっと見つめていたくなる。

カメラが映し出すのは、ただただ、ユミコや周りの人々が、日々を丁寧に大切に過ごす姿。

そんな中で、映し出される子供たちの姿は、となりのトトロの世界のようだった。
大らかで広々と自然豊かな海辺の土地。子供達は、水の淵を元気良く走りまわる。

そこに見える危うさも、人はいつだって死と隣り合わせに生きていて、それを受け入れて生きるしかないと言うこと。

メメントモリの世界観なのだ。

是枝監督の作り出す映像のひとつひとつにわたしの目と心は釘付けでした。

いつまでもずっと見ていたい。

日々を丁寧に大切に生きる人の姿を。

ああああ、ほんと、なんて素晴らしい作品なのだろう。

実は、この作品を紹介してくれたのは、日本映画好きの外国人。
是枝監督は、今や世界で認められる監督に成長されているけれど、日本人として心底誇れる作品だなと思った。(だか、外国人がどこまで理解できるかは疑問。映像とテンポは他に類を見ない作品だろうから新しい体験なのかも?)

終盤の弔いの行列の最後尾を歩くユミコの姿を遠巻きに捉える映像がまた素晴らしい。

1人になったユミコの影とそこにタミオの影が加わり、歩く2人の距離感が絶妙で、昨今西洋的な日本人が描かれる日本映画とは違う、これぞ昭和の日本人の姿なんだよ!と言う説得力。

そう…忘れなくてもいい。
そして、忘れてしまってもいいんだよ。

だって、例え忘れても、過去は誰にも消せないし、きっと完全に心から消えてしまうことはないのだから。

ほんと素晴らしかった!!
みゅうちょび

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