ヒダリー

ラルジャンのヒダリーのレビュー・感想・評価

ラルジャン(1983年製作の映画)
4.8
全編に染み渡るというか横溢してしまっているロベール・ブレッソンの美学。映像的余白、いわゆる行間で"因"と"果"を縫合して因果に仕立てていく、一種の芸術のような省略演出。完璧に無駄が無く洗練され切っている。
一枚の贋札がバタフライエフェクトのように作用して一人の男の全てが狂っていく転落劇。悪と偶然が容赦無く積み重なり続け、少年の「ウソ」が最悪の犯罪に膨張する。フリードキンの耽美的な突き放しとは性質がまるで異なる、冷酷でシニカルなそれ。過剰な俯瞰、ドキュメンタリーとも違う、もはや神の視点から不条理を通して、「偶然」に対する人生というものの脆弱性とその不可逆性を、つまりは「虚無」を描き出している。
冒頭の閉まるATMの扉とラストの開いたままの扉。扉の向こうにあるあらゆる「無」。一貫して不均衡な交換。

初ブレッソンで本作を鑑賞したのは本当にやらかしてしまったと思う。生涯で指折りに安い買い物だった。
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