Genichiro

カルメンという名の女のGenichiroのレビュー・感想・評価

カルメンという名の女(1983年製作の映画)
4.6
アメリカ音楽のコスプレとしてミュージシャンのキャリアが始まったハリー細野が歳を重ねるにつれて実の部分が伴った音楽になっていく(側からはそう見える)というのはなかなか面白い、80年代のゴダールもそういうことだったのではないか。批評家の実践、というよりは限りなく映画監督のコスプレに近かったゴダールは70年代に政治の季節を過ごし1980年の『勝手に逃げろ/人生』から商業映画に復帰する。80年代のゴダールの作品はどれを見ても本当に面白い、時代の要請/作家的な技量/コンセプトがうまく合致していた時期だと思う。『カルメン』をベースに銀行強盗で資金調達して映画を撮るストーリーで、実際に劇伴を担当した弦楽カルテットをそのまま映画に出してしまうってめっちゃゴダール。とにかくうるさい弦楽四重奏曲が終始鳴り続けるが、不意に切断される。その瞬間のエクスタシー!!真夜中の道路を駆けていく車や交差する電車が美しく、そこから海のカットへ繋がれた時の快感は劇場のスクリーンで見ると格段に増す。『軽蔑』や『気狂いピエロ』で映された地中海とは違う、日本海と須磨海岸を足して2で割ったような暗い海はなんなのだろう。あれが80年代のゴダールか。終盤のドッタンバッタン偽活劇はよくわからんけど、まあ楽しい。何より、ブラウン管テレビを覆う手のひら。あのショットで頭が爆発してしまいました。
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