糸くず

民衆の敵の糸くずのレビュー・感想・評価

民衆の敵(1931年製作の映画)
3.5
脇道を一切見ない映画。

ジェームズ・キャグニー演じるトムに「葛藤」なんてものは全く用意されていない。母親の前では弱さを垣間見せるが、だからといって、トムが母親や兄の忠告をちゃんと受け止めて思い悩むことはない。誰の言葉も受け付けず、ワルはワルのまま破滅まで一直線に進む。贅肉を極限まで削ぎ落とした語り口は、パンク・ロックを聴いているのと同じ感覚を呼び覚ます。

「アクション映画」と呼んでもいいくらい、冒頭の警官との追いかけっこからアクション満載なのだけども、最後の殴り込みでは、「事務所に入っていくキャグニー→銃声→血まみれで出てくるキャグニー」というアクションを排した粋な演出で魅せる。時代もジャンルも全く違うが、まるで『ミツバチのささやき』みたいだ。その後、激しい雨の中をよたよたと歩くキャグニーを延々と映し続ける場面も壮絶で美しい。

そして、ラストのキャグニーはもはやアクションをすることさえ許されない。単なる物体としてばったりと倒れるだけだ。そして、今度はよたよたと去っていく兄の足元だけが映される。唐突なようでいて余韻の残る鮮烈なラスト。 陰惨でありながらも、フレッシュな香りが残る映画だった。
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