似太郎

真田風雲録の似太郎のレビュー・感想・評価

真田風雲録(1963年製作の映画)
4.3
加藤泰が監督したSF仕立てのミュージカル時代劇。中村錦之助が宇宙からやってきたツタンカーメン…ではなく、猿飛佐助を好演。

本作はもともと劇作家・福田善之による戯曲であり、戦国ドラマにも関わらず60年日米安保騒動の全学連などに代表される抵抗勢力の戦いと挫折という政治的色合いが濃いストーリーとなっている。

当初、東映は監督に沢島忠を起用する予定だったが、沢島は政治的匂いのするものに興味がなくシナリオ段階で福田と衝突し、結句加藤泰にお鉢が回ってきたとの事。

当然ながら加藤泰も政治的匂いのする企画にはぜんぜん興味なかったらしいが、一種の青春群像劇と位置付ければ自分のテリトリーに持ち込めると判断したようだ。

結果的に理屈抜きで楽しめる娯楽映画、活動屋としての加藤泰の才能が遺憾無く発揮された喜劇調ミュージカルに様変わりした。加藤泰のフィルモグラフィー中でも「超」が付くほどの異色作に分類されるカルトムービーとして一部で絶大な人気を誇る作。

冒頭の関ヶ原の合戦シーンはまんま内田吐夢の『宮本武蔵』と同じで、殺戮、血みどろ場面のむごたらしさからスタート。そこへ「16世紀の日本は戦争ばかりだった。これは、その中に生まれ育った少年達の物語である」という妙なテロップが‼️

やがて少年達は真田十勇士と呼ばれた十人の若者に成長し、真田幸村(ひたすらカッコ悪い千秋実!)の傘下で大坂夏の陣、冬の陣で孤軍奮闘するが最後は敗退していく…というシビアな内容。

喜劇調ミュージカル時代劇と銘打ってるだけに、日本映画史上でも稀な体裁を取っている。東映の撮影所長が「これは左翼の映画だ」として大坂冬の陣をカットせよと命じたが、助監督の鈴木則文が何とか会社と渡り合い、撮影は難航を極めたがどうにか完成に漕ぎ着けた。

忍者、お姫様、ワイヤーアクション、町人による破廉恥などんちゃん騒ぎ…。
加藤泰の脳内にあるごった煮要素が画面中に噴出した怪作だが、ラストはどこかこの監督らしい無常感と諦念とリリシズムが漂っている辺りがミソでもある。

全編バカ騒ぎしているようでその実、懐の深い映画なのだ。個人的には『沓掛時次郎/遊侠一匹』以上に加藤泰節をビンビンに感じるアナーキーな青春の儚さを描いた逸品。若い人にオススメ。
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