半兵衛

大阪の宿の半兵衛のレビュー・感想・評価

大阪の宿(1954年製作の映画)
4.0
主人公である佐野周二の女性への憐れみや同情が、人情ドラマの範疇を超えて何も出来ない自分への怒りや諦念とない交ぜになって生々しい感情となって真に迫ってくるので少しビビってしまう。でも実はこの主人公の思考こそ五所監督の感情に一番近いのかも。主人公絡みのエピソードが全く作動せず、女性たちのドラマに熱を入れて描くというバランスの悪さもそうした感情がほとばしった結果なのだろうな。

そしてその感情は、登場人物である女性たちが不幸になればなるほど増幅し、無常観となって見る人に迫ってくる。女を食い物にしたり道具あつかいしていた多々良純が何の罰も受けずのうのうと生きていることも虚しさを一層際立たせる。

ダメ夫と別れられない水戸光子のエピソードも悲しいが、極貧の中で生活しているのに主人公に偽物を売り付けてしまったことをきっかけにどんどん落ちぶれ、弁償のために売春婦みたいなことをしたりしまいには父親が死んだりと不幸のどん底を行く安西郷子のエピソードが凄まじすぎる。父親が死んだときの不幸に慣れすぎてしまったかのような冷淡な表情は『天使のはらわた 赤い教室』の水原ゆう紀に匹敵するかも。
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