Jeffrey

魅せられてのJeffreyのレビュー・感想・評価

魅せられて(1996年製作の映画)
3.0
「魅せられて」

冒頭、ニューヨークに住む19歳の少女。亡くなった母親が残した詩、イタリアのトスカーナ地方への旅。父親探し、美しい葡萄園、赤土と灼熱の太陽、プール、家族、パーティー、白血病の男。今、様々な出会いと共に大人の女性へと成長する…本作は「ラストエンペラー」でアカデミー賞を制覇した彼が、15年ぶりに故郷イタリアで撮影した青春官能ドラマで、本作がブレイクとなったタイラーが際どいシーンを体当たりして、1人のピュアな少女の性を通して大人の女性と目覚めていく姿を瑞々しく演じた1996年英、仏、伊合作映画で、ベルナルド・ベルトルッチが絶好調だったリヴ・タイラーを主演にして監督したドラマで、第49回カンヌ国際映画祭出品作である。この度、国内でBD化され購入して十何年ぶりに再鑑賞したが、ほとんど記憶からなくなっており、基本的にリヴ・タイラーはあまり好み(ビジュアル)ではないが、本作における彼女は非常に初々しく美しく映っていて好きである。本作のジェレミー・アイアンズとシニード・キューザックは実際に結婚している夫婦である。

正直、東洋三部作を経て、15年ぶりに作った母国イタリアの作品で、当時公開され4週間連続1位 (イタリア国で)の記録を出し、カンヌ映画祭でも絶賛され話題集めたとなっていたが、そこまでの映画かなと思ってしまう個人的に。最初に前情報(プロット)を読んだ時は、なかなか魅力を感じた。自殺した母親の残した詩を手がかりに、アメリカを離れトスカーナにやってきて、実の父親の謎めいた解明と4年前にキスを交わした恋心を抱いた青年に会う目的と言う入り組んだストーリー性は面白いなと思ったが、実際見てみると正直普通である。ポランスキーの「テス」同様(同様と言う言葉はふさわしくないかもしれないけど)に、ミューズの輝きと美しさをベールにまとい神秘的な魅力に溢れる、リヴ・タイラーを見る映画だなと感じた。「テス」の場合は物語は確かにあったけど、ナターシャ・キンスキーの美貌の方に目がいってしまう。本作もそっち系の映画だった(個人の意見)。

映像的にはすごく葡萄園など美しく、赤土に囲まれた大自然の中での生活を淡々と見るのは嫌いではなかった。しかしアクションが少しばかり少ないなと感じる。もう少しいろいろな出来事が起きてもいいかなと思った。夏の恋と初体験を通して、主人公の女性が大人への第一歩を踏み出すと言うストーリー性は嫌いではない。それと後ほどがっつり語るが、サウンドトラックが素晴らし過ぎる。確かルーシー役に抜擢したタイラーは撮影中に18歳の誕生日を迎えた美少女で、ロックバンドのエアロスミスのスティーブン・タイラーを父に、スーパーモデルのべべ・ブュエルを母に持ち、モデルから3本のインディペンデント映画に出演し、今回が初の大役となったと記憶している。日本でもヒットしている大島渚の「戦場のメリークリスマス」で知られる大プロデューサーのジェレミー・トーマスが本作の制作を担当していて、ベルトルッチの「ラストエンペラー」に続く東洋三部作の人気製作者だ。どうやらこの作品は、監督のオリジナルらしく、アメリカの女流作家スーザン・ミノーと18ヶ月かけて共同でシナリオを完成させたらしい。

正直ベルトルッチと25年間コンビを組んでいた名カメラマンのヴィットリオ・ストラーロがいないのは残念だが、この作品の撮影を担当したダリアス・コンジは皆さんもご存知の「デリカテッセン」「セブン」で注目を浴びている当時新進だった人物で、本作の撮影も非常に良かった。そういえば、「デリカテッセン」角川書店から4K BDが2年前に一瞬アマゾンで発売予定だったが、急遽取りやめになり延期になってから全然発売されないけどいつになったら発売するんだろう。話が少し脱線したが、本作の主演のリヴ・タイラーについて少し話したい。彼女と言えば、先ほども言ったようにロックバンドのエアロスミスのスティーブン・タイラーを父に持っているのだが、94年のエアロスミスの"クレイジー"のミュージック・ビデオにアリシア・シルバーストンと出演して大反響を呼んだのは有名な話だろう。

そしてその同年に、リチャード・ドレイファス共演のミステリー「精神分析J」でスクリーンデビューしたのも周知の通りだ。そして自分も好きでBDを持っているのだが、95年製作のレコード店員の1日を描いた「エンパイヤ・レコード」を始め、サンダンス映画祭の観客賞を受賞し、カンヌ国際映画祭の正式作品として上映されたジェームズ・マンゴールド監督の「Heavy」にも出ていたのが懐かしく思う。そしてまだ円盤化がされていなかったと思うけど、パット・オコーナー監督の「秘密の絆」にも出演していた。自分この作品VHSを購入して昔に見たことがあるが、ほとんど内容を忘れてしまっている。まだ家の棚にあるはずなので、今度見返そうかな。そうそう、トムハンクス主演兼初監督の「すべてをあなたにに」も出ていたと思う。最後に、彼女は当時来日している。さて、前振りが長くなったが、ここから物語を説明したいと思う。


さて、物語はアメリカに住む19歳のルーシーは、母親が自殺し心に深い傷を負う。詩人でモデルでもあったサラは、自由奔放に行き母親としての責任感にかけていたが、ルーシーは母の残した詩に秘められた自分の出生と、実の父親についての謎を解明するためイタリアのトスカーナへ旅立つ。実はルーシーには、もう一つの目的があった。4年前に訪れたトスカーナで、ニコロ・ドナーティとファースト・キスを交わした甘美な初恋の思い出が忘れられず、手紙を途絶えたにニコロに会いたかったのだ。大都会の騒々しさから離れ、葡萄園と美しい自然に囲まれて住む芸術家イアン・グレイソンと夫人ダイアンのアトリエ付の家にやってきたルーシーは、再会を喜んでくれた母の親友夫妻に歓迎される。4年の間に神秘的な美少女に成長したルーシーの燃えるような瞳にイアンは心奪われ、彼女をモデルに肖像画を描き始める。

クレソン夫妻の家には、白血病で自分の死期が近いことを知っている劇作家Aアレックスが、病院からー時退院し静養していた。彼のルーシーの美しさに魅せられた1人だった。骨董品のディーラーをしていた年老いたフランス人のムッシュ・ギョームもグレイソン夫妻の友人で、ズバズバと意見を言うご意見番のような存在だ。失恋の痛手を負っている中年のジャーナリストのノエミ、ダイアン前夫の間の娘で人生に疲れを見出していたミランダもこの家でー夏のバカンスを過ごしていた。ルーシーは、ミランダが弁護士の恋人リチャードと激しいセックスに溺れている現場を見てしまうが、プールでは全裸で戯れ、リベラルで開放的な2人に好感を持つ。外見は平凡そのもののグレイソン家だったが、すでに家族の絆はバラバラで、なんとか一家を支えているのは夫婦の幼い娘デイジーと、ダイアナの包容力に溢れた愛情だけだった。

ニコロがシャイな弟のオスワルドや友人とやってくる。立派な若者に成長したニコロとの再会に胸ときめかせるルーシー。彼女の美しさに若者たちも魅了されるが、ルーシーは木陰でニコロがガールフレンドとキスをしているところを見てしまい、彼もセックスを追う普通の若者だった事をしり幻滅する。ルーシーがアレックスに父性を感じる母親の事や自分の悩みを打ち明け、なんとか相談に乗ってもらい、自分がバージンであることをまで話す。一方、アレックスも生命力にあふれた美しいルーシーを見ていると、胸が熱くなり生きる力が回復してくるのだ。彼にとってそれは最後の恋でもあった。ある夜、レストランで全員が食事をしているとき、ニコロがガールフレンドと親しくしているのを見ただけで嫉妬心なルーシーにしこみ上げてくる。彼の思いが立ち切れないでいる彼女は、田園でニコロと2人きりになり、彼からセックスを求められる。熱く燃えていく体が求めながらも、一線を越えられず拒否してしまうルーシーは、1人になるとやり切れなさに泣けてくるのだった。

豪邸ヴィラ・ドナーティでの夏の夜のパーティーには、ルーシーもかつて母が身に付けたドレスを着て出席した。刺激的な音楽と踊りは、人々を性的興奮に誘い込む。ミランダは相変わらずリチャードとのセックスに燃え狂る。ダイアナも夫を久しぶりにセックスに誘う。ノエミもまた、失恋の痛手から新しい恋を見出していた。夏も終わりに近くなった日、アレックスの病状が悪化し病院に運ばれる。彼が、再びこの家に帰って来れないことを誰もが知っており、ルーシーも泣きながら別れを告げる。そして、意外な人との初体験を通して、彼女は大人に一歩踏み出す…とがっつり説明するとこんな感じで、監督の大作「1900年」の続編的な物語であると感じる。日本ではラックスのヘアケア製品のCMキャラクターにも起用され、プロモーションのために初来日していた彼女が1番ピーク時に美しかった時の映画である。そういえばイタリア人の作家ってこだわりがあるよな。例えばジュゼペット・トルナトーレと言うのは、基本的にシチリアを舞台に撮る作品が多いし、フェリーニの場合はアドリア海の港町であるベネチアやリミニを描いてたし、パゾリーニなんてローマの街角ばかりをとっていた。

そうするとベルトルッチはシエナやフィレンツェと言う都市を入れたトスカーナとかが多いな。実際本作はトスカーナだし…。キアロスタミもトスカーナを舞台に一本映画を撮っていたなぁ確か。実生活のリヴ・タイラーは本作のルーシー役の人物と共通点があり、彼女が9歳の時にそれまで自分の父親だと信じていた男性が本当の父親ではないと言うことを知ったことがあったそうだ。今思えば、彼女の美しさに終始魅了されていた白血病で死期迫る劇作家アレックスは、「運命の逆転」でアカデミー賞主演男優賞受賞したジェレミー・アイアンズだったな。2人の駆け引きがなんとも印象に残った。クライマックスの救急車の中でキスをする場面はびっくりする。この作品の画期的なところは、太陽の位置によって様々な表情を見せるトスカーナの美しい風景が最大限にカメラに収められていることだろう。地方独特の赤土の風景は圧巻そのものだ。トスカーナと言えば、様々なイギリスのロマン派詩人や小説家、現代作家を魅了した場所だ。



いゃ〜、出だしからLiz PhairのRocket Boyが流れるのはテンションが上がる。しかもまた直ぐにHooverの2 Wickyが車の中で流れるでしょう、俺の好きな音楽が集まってて個人的には最高。中盤あたりになって、トスカーナ独特の赤土の風光明媚な過ごしやすそうな気候の中で、Lori CarsonのYou Won't Fallが流ながら若者たちをドライブしたりする場面も良い。その後にリヴ・タイラー演じるルーシーが、ウォークマンで聴くホールのRock Starでロックンロールしてる感じも最高。そんで極めつけはスティーヴィー・ワンダーのSuperstitionが流れるパーティー場面はもうヤバすぎる。超絶かっこいい音楽に、リヴ・タイラーがワイン片手に踊るシーンは脳裏に焼きつく。んで、ほぼクライマックスでSam PhillipsのI Need Loveが流れんのもまたいいのよ、あの原風景の美しいシーンで男女が戯れるきれいな画。正直物語は退屈だけど、流れるサントラは最高。

後に、1999年の大人気シリーズ「ハムナプトラ」のヒロインを演じるレイチェル・ワイズが、アソコの〇〇を出すと言う大胆なプール際のシーンは印象に残る。今思えば2005年の「ナイロビの蜂」でアカデミー賞助演女優賞受賞してたな。ちなみに彼女は本作がスクリーンデビューである。あのプールで泳ぐリヴ・タイラーの水に濡れた顔でにっこり笑うクローズはいいわ、胸キュンするわ。さてそろそろ書くことがなくなったが、歴史と伝統ある旧家での撮影のことに最後触れたいと思う。グレイソン一家が住む歴史と伝統ある家は、トスカーナの旧家リカソーリ男爵のブロリオのぶどう園の中に建てられた家を借りて撮影されたとのことだ。ボデリ・ヌオーヴォと名付けられたその家から、1141年に建てられたブロリオ城をバックにぶどう園に囲まれ、南遥かにシエナ・キャンポの有名な鐘楼が見渡せる立地条件は最高とのことだ。

ブロリオ城はシエナとフィレンツェ共和国が戦った昔、全哨基地になり標的にもされ、何度となく激しい戦争と化した歴史がある。ブロリオの質の良いワインは、現在も最大の収入源になっているとの事。キャンティー・クラシコの名で知られるこのワインの醸造法は、19世紀末にベッティーノ・リカーソン男爵によって編み出され、現在も受け継がれているとのことだ。法皇アレクサンダー3世の実家での撮影のことにも言及したい。ヴィラ・ドナーティの優雅なサマーパーティーシーンは、12世紀から代々続く名家で、法皇アレクサンダー3世の実家でもあるビアンキ・バンディネリ家の豪邸ヴィラ・ディ・ケジャーノが使える幸運に恵まれた。シエナの北約5キロに立つ豪邸は、18世紀に造園された美しい庭がいくつもあり、野外劇場、18世紀末にイグナツィオ・モデールが描いた田園風景のフレスコ壁画がある廊下なども撮影を許されたらしい。磨き抜かれたインテリアと彫刻。グレイソン夫妻の役柄が芸術家であり、20年問いかけて築き上げてきた彼らのこだわりのマイホーム、ライフスタイルを出すためにベルトルッチ監督は苦心したと言っている。

彼の大変な苦労によって、寝室から庭、来客用のコテージ、アーティストのアトリエ、トスカーナ地方の手作りの素朴な家具と、イタリアが誇るモダンデザインの芸術的なインテリアの融合性がなんとも絶妙に作られたと当時評価されていた。家の敷地には、監督の長年の親友でトスカーナ在住の芸術家マシュー・スペイダーの粘土彫刻が並べられていた。この作品にも出てくる茶色いおかしなへんてこなデザインのやつだ。確かスペイダー自身がアーティスティック・アドバイザーを務めている。アトリエには彼の作品も置かれ、彫刻家のアトリエの雰囲気を出しているそうだ。以上。
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