ニューデジタルリマスター版。小津を知らずしてこれまで映画の何を観てきたかと衝撃を受けた作品。戦後の三世代の家庭(東野英治郎、笠智衆、佐田啓二)を通じて、その暮らしぶりと家族、男女像のあり方の変化(笠智衆はいまだ着替えを手伝ってもらい、佐田啓二は自分で料理する。男性の家庭的振る舞いの描写は海外作品も含めて珍しいのでは)を穏やかに映し出す。
ローポジの厳格な構図とスタティックで奥行きを意識した映像、そしてそれが主人公であるかにも見える街並みのカーテン・ショット、棒読みにも聞こえるセリフ回し。穏やかで家庭的なテーマを扱いながら、微に入り細に入りの峻厳な小津美学が散りばめられる。
さらに登場人物とオブジェの相似(例えば、結婚式後の笠智衆と李朝白磁の面取徳利)、繰り返されるセリフ回し(岡田茉莉子の「ダメよ、ダメダメ」)と、マニエリズムと言われようとも、まさに「遺作」であるにふさわしい(1/37/54)。