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秋刀魚の味のneohetareのレビュー・感想・評価

秋刀魚の味(1962年製作の映画)
4.0
カラー版晩春。
麦秋のガールズトークに見られた台詞のテンポ感が作中満遍なく頻出していたり、晩春や東京物語からの小津定番の構図もよく出ていたりと、スタイルが研ぎ澄まされている印象があった。
とりわけ構図に関しては卓上の小物等のナメ物による視線誘導の意識がより先鋭化していた。

恐らく瓢箪の中華屋は東京物語の美容室と同じセットで、どちらも酔っ払いの悲哀のシーン。イメージを場所に紐づけていたのだなとわかる。

食器や家具の昭和レトロでビビッドな色味が差し色になって洒落ている一方で、白黒では気にならなかった「セットっぽさ」が目立つようにもなっており、小津映画にとってはカラー化は良し悪しの両面があった。自分は白黒の方が落ち着く。

晩春とほぼ同一の構成だが、晩春は原節子の映画だった一方で秋刀魚の味は笠智衆の映画となっており、それにより「人間が最終的に行き着くのは孤独です」という側面がよりくっきりと現れていた。

個人的には秋刀魚の味というタイトルは2通りに解釈した。

①秋刀魚(塩焼きだと勝手に想像)はきっと娘の路子がいつかに食卓に出してくれたのだろう。そんな路子が嫁いだことで秋刀魚も食べなくなった。秋刀魚の味とはもう取り戻せない幸せだった頃の象徴。

②和夫の「明日は俺が飯炊いてやるから」という台詞にあるように、路子抜きの家でこれから食べていく食事。質素な秋刀魚。孤独を噛みしめる味。
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