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秋刀魚の味のinuのレビュー・感想・評価

秋刀魚の味(1962年製作の映画)
5.0
小津安二郎の描く生活は自然で、その時代そのもののように感じる。黒澤映画をある種対外的な要素を持った作品と見るのであれば、小津映画は対内的というか戦後当時の日本の暮らしそのもののような感覚。ハイテクストな情景の中で淡々と会話が進む。過度な説明は…というかそもそも説明自体ほとんどされないし、ある家庭の暮らしをそのまま切り取るように物語が出来上がるのは見事なものだと思う。
本作では、笠智衆演じる父の老いと寂しさを岩下志麻演じる女の結婚を通して映し出している。父娘の関わりから父の哀愁を語るのは小津映画に徹底されているとおりだ。とにかく、自然で丁寧な会話劇の魅力溢れる作品だった。
また撮影技法が豊かで、こちらもやはり目を引く。最初のシーンからとにかく建物の外観と内装の撮り方が美しく、その時々が一枚の写真としての価値を持っている。そして何より岩下志麻、岡田茉莉子が美しい。何故かこの頃の日本の女優はそのあまりの美しさに異国風の情緒すら感じられる。本当に美しい。どういうことなんだ、あれは一体!?

小津映画鑑賞歴もなく、評価を下せるような身分ではないが、きっと小津安二郎の映し出す映画というのは日本的な美学そのものなのではないかと思う。
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