半兵衛

ナッシュビルの半兵衛のレビュー・感想・評価

ナッシュビル(1975年製作の映画)
4.2
ロバート・アルトマンほど厄介な映画作家はいないと思う、大半の作品は大勢の登場人物がわちゃわちゃと騒いでいるだけのように見えるけれどその作品の奥には作品の底にある深淵なテーマを訴え続ける監督の視線がありこういった作品を語ると自分の浅い思考が丸見えになるようで簡単に語るのを憚ってしまう。

この作品も初見のときは人を食ったような作風とつかみどころのないとっ散らかったような語り口に面食らって自分は一体何を見せられているのか理解できず「ただ変だけど凄いものを鑑賞した」という感想しか持てなかった。しかし数年振りに見直すと、ナッシュビルての数日間の出来事を通してアメリカの病理を深くえぐり観客にむき出しの状態で突きつけていることに気付く。登場人物がふとみせる内面の顔、合間合間に出てくる選挙キャンペーン、不穏な行動、それらはすべて別々のパーツのように見えて、一つにつながりアメリカに隠れた内面の虚無がリアルな質感を伴って出てくる離れ業に感嘆する。

歌手志望の女性が受ける屈辱や、アメリカンドリームを掴んでいる歌手の様子など登場人物に夢を与えず冷酷に観客に見せつける演出がアルトマンらしい。そんな歌手志望の女性に黒人青年が優しく接しても報われないところもそう。

多数いる登場人物の個性を衣装や髪型はもちろんのこと、各々が乗っている車にまで気を遣ってわかりやすくしている演出が凄い。そのためこういう多数のキャラが登場する作品にありがちな誰が誰状態にならないのがありがたい。

ただ自分はアメリカに詳しくないのでカントリーとアメリカのつながりが今一つ解せず、世界観に浸ることが出来ないので残念な気分に。ゲーム『GTA』シリーズのカーラジオで散々聴いていたはずなのだが。

車の演出がどことなく『プレイタイム』っぽいのが印象的。

でもラストのオチは今の日本人にはきついジョークかと。
半兵衛

半兵衛