みき

ソイレント・グリーンのみきのレビュー・感想・評価

ソイレント・グリーン(1973年製作の映画)
3.6
10年ぶりくらいに観たマイベスト(と思い込んできた)映画。終始ほんのり薄気味悪くて、ラストの真実に収束するふわふわした会話と、地味なアクションで進んでいく脚本で、画面には色がなくて空間も閉鎖的、BGMも盛り上げない。なのに好き。とても好き。映画のよさってなんだっけ?おもしろい=好きではないことを改めて思った。

以前見たときは、現実世界のあたりまえ(食事や自然)が、劇中で非現実的なものとして扱われているなんとも言えないおかしさが刺さっていたんだけど(あとオチ)、改めて観ると、どんなに辛い世界でも、愛する人と食事をして、美しい景色(特別なものでなくてもよい)さえ見られれば、それはとても幸せなことなんだと、劇中をただ生きてるだけの人々が全身で語りかけて来ている気がして、勇気をもらった。

今回はソーンが石鹸の匂いを嗅ぐシーンがとても気になった。新鮮に石鹸を嗅ぐという違和感が、この世界はどういうにおいがするだろうと想像させ、たぶんスモッグとほこりと人の汗の悪臭に満ち満ちてるんだろうなと気づかせる。ちょっと違うけど最近観たコーダあいのうたで、無音にすることでろうあ者の疑似体験をさせるシーンがあって、五感を使ったトリックは、箱の中に閉じ込められて観る映画でこそ生きるなと思った。(コーダ家で観たけど)

以下ちょっとネタバレ。ホームのシーンは、それまで抑圧的だった色と音楽のない世界を散々見せられてからの自然の映像とベートーベンの田園なので、ここまでの地味な画面はソーンの感情に入り込む仕掛けとしてずっと前フリを見せられてたのか!と思った。愛する家族の死を目の前にしながら、自然の映像に見とれてしまうソーンと一体化した感覚があった。

「家具」のシャールも、とてもよい役割だったことに気づいた。人権の失われた世の中で、自分の存在意義は求められることにしかないと思い込んで「必要がないから怒らない」でいたシャールが、人間らしく生きるソーンと出会うことで「わたしは家具ではない」とアイデンティティを取り戻す過程を嫌味なくさらっと描いていて、最後に「生きろよ」とだけソーンが電話越しに伝えるシーンは、どんな世界でも境遇でも自由意志で生きることの大切さをとても端的に表したメッセージだと感じた。活躍=重要ではないなとこちらも改めて。ソルの遺言を無視して、収集車を追いかけて行ってしまったために、交換所も摘発されてしまうであろうバッドエンドに向かうのも、ソーンの自由意志によるもので、これはこれで「人間らしさ」なのだ。

「家具」たちに暴力をふるうアパートの管理人を、セックスしてスッキリしたソーンが諭しにいったシーンのおかしさにも気づいて、賢者タイムやんけ!!と思った。
みき

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