Omizu

黒い雨のOmizuのレビュー・感想・評価

黒い雨(1989年製作の映画)
4.0
【1989年キネマ旬報日本映画ベストテン 第1位】
『楢山節考』『復讐するは我にあり』の今村昌平監督が井伏鱒二の同名小説を映画化した作品。カンヌ映画祭コンペに出品された。主演の田中好子は国内の主演女優賞を総ナメにした。

これ、かなり有名な映画のはずなのにDVDが廃盤なんだよね。渋谷TSUTAYAにもDVDなかったからVHSで観た。

今村作品の中では一番クセがなくてよかった。淡々としているぶんすっと入ってくるというのかな。非常に厳しく辛い話なので、いつもの今村テンションだとキツかったかもしれない。

最後に重松が朝鮮戦争でまた原爆を使うかも、というニュースを聞いて「正義の戦争より不正義の平和の方がましだとなぜ気づかないのか」と言う。これに100%賛同するかは置いておいて、まさしく今考えさせられるセリフだった。

原爆の黒い雨を浴びたことによる二次被害を描いていて、直接的な描写は実は少ない。冒頭と時折挟み込まれる重松の回想のみに留められている。それでもやはり『はだしのゲン』や『火垂るの墓』を思い出さずにはいられない。原型を留めない顔になっている弟が兄を呼ぶシーンはみていられなかった。

淡々としているからこそ、いつ来るか分からず、段々と体を蝕む被爆による身体の変化が恐ろしかった。

今村昌平っぽいユーモアもそこかしこにあるが、それが逆に哀しかった。いつもの今村作品は少し熱っぽすぎるというか、しつこい感じがあったんだけど、この作品ではドライな描写の中にある哀しいユーモアが裏側にみえてよかった。みんなで匍匐前進するくだりとか、可笑しいのになぜか涙がにじんだ。

まあなんと言っても白黒の撮影が美しい。川又昂のかなり最後の方の仕事なんだけどここにきて最高点を叩き出したという感じ。

田中好子の抑えた演技もいいが、叔母と叔父を演じた北村和夫と市原悦子が素晴らしい。北村和夫の最後の顔にはやられたし、市原悦子はいつもの感じではあるけど今村演出にかかるとこうなるか、というマジックが働いていた。あとは原作にはない悠一、いいキャラだったな。幸せになってほしい。

日本映画の底力を感じた力作だった。辛いけど観てほしい作品。
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