櫻イミト

黒い雨の櫻イミトのレビュー・感想・評価

黒い雨(1989年製作の映画)
4.0
広島への原爆投下により、周辺に降り注いだ放射性の黒い雨や残留放射能で二次被爆を受けた人々の人生を描く。井伏鱒二『黒い雨』(1965)の映画化。今村監督の「うなぎ」(1997)の前作。音楽は武満徹。

「この映画は声高であってはならない。低声でなければ・・・」今村昌平

同じく原爆被害を描いた「原爆の子」(1952)「ひろしま」(1953)とは主題が異なるように感じた。冒頭に爆発と直後の惨状が描かれたあと、即死は免れたが未来を限定されてしまった一般人の日常が、等身大に淡々とスケッチされていく。伝わってくるのは強い悲しみや怒りよりも諦念や虚無といった感覚だ。原爆投下直前に主人公(田中好子)が時計の針を合わせる場面がある。その翌日から、一生の不条理な時間が始まる。

白黒の映像が重厚だった。DVDには未公開となったカラー20分のエピローグが収められていた。今村監督が悩んだ末にカットしたパートだが、個人的には強く印象に残った。本編よりも不条理色が強く、本作の本質がより表現されているように思った。

核兵器自体が絶対的に禍々しく不条理なものだが、それを作り出し使用した人類も不条理な存在と言わざるを得ない。核兵器は現在も保有され人類は不条理な存在のままだ。

ノーラン監督の「オッペンハイマー」(2023)がアメリカでヒットしているらしいが、併映として「原爆の子」「ひろしま」が難しければ、ぜひ本作を上映してほしい。
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