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ヘアピン・サーカスのfallenleavesのレビュー・感想・評価

ヘアピン・サーカス(1972年製作の映画)
4.0
怖いものを観てしまいました……。
実際のスターレーサー・見崎清志が吹替無しで運転するのは圧巻。フォトジェニックな魅力の江夏夕子のクルマもカッコいいです。道具立てだけとるととてもスタイリッシュで調子のいい映画に見えますが、この映画を貫くのは暗く、どろどろとした危険な空気であります。
見崎はレーサーでしたが、仲間の事故死を経て、現在は自動車教習所の教官をやっています。そこに現れるのはかつての教え子・江夏夕子。彼女は危険運転を繰り返し、見崎の指導からは離れていきましたが、本免許で一発合格したようです。彼女は仲間と「サーカス」を結成し、高速を夜な夜なとばします。煽り・蛇行・妨害の限りを尽くし、引っかかったカモを追いこんで「撃墜」するのがサーカスの流儀。撃墜数は車体に勲章として描かれます。そんな彼女の車に乗せられた見崎は、かつての師として怒りをぶつけるのですが、その一方でレーサー時代を想い出し、スピードの快楽がフラッシュバックします。それを受けて見崎はかつてのレーシングチームの監督に会いに行きます。彼が見崎に告げる「スピードは麻薬のようなもの」という台詞が印象的です。監督は見崎の復帰を説得しますが、見崎は一度は誘惑を退けます。しかし、江夏のサーカスとの数度の邂逅を機に、監督からクルマを借り、敢えてカモになるふりをして、彼らを撃墜するための単独飛行に繰り出す、という筋立てです。このサーカスとの対決、正義感から行っているのか、快楽から行っているのか、はたまたその両方なのか……恐らく両方なんでしょうね。そのあたりが不気味で非常に危険です。
見崎はレーサーであり、本職の俳優ではないのもあって、主役でありながらほぼ台詞がありませんが、凄みがある。しゃべらないことでこの主人公の特徴である仲間のレーサーの死をきっかけに心が死んでしまっている感じがよく出ています。イッちゃってる感じです。そんな見崎がサーカスの標的となりながら、返す刀で彼らを次々に撃墜していくさまはサスペンス、ほとんどホラーです。こんなにも台詞が少なく、クルマの走行シーンばっかりなのに圧倒されてしまうのはスピルバーグ『激突!』に通じるところがあるかもしれません。しかし、こっちの映画のほうがクルマを極度にフェティッシュにとっている点で自動車映画度は俄然高いです。笠井紀美子も死んだレーサーの恋人役で出演しますが、スキャットを少し披露する程度で、本格的に歌いません。ここはちょっと残念。ですが全体的になににも似ていないような得難い映画であることは確か。
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