Jeffrey

カルパテ城の謎のJeffreyのレビュー・感想・評価

カルパテ城の謎(1981年製作の映画)
3.0
「カルパテ城の謎」

冒頭、古城の内部と伯爵の旅。マッドサイエンティスト、メカ、オペラ歌手の男、誘拐された歌姫、古い城にたどり着く。機械、ガラス割り。今、無事に救出するべく、城に向かう大冒険活劇が描かれる…本作はオルドリッチ・リプスキーが1981年に監督したチェコスロヴァキアの異色コメディで、マッドサイエンティストVSオペラ歌手のシュールにしてコミカルな監督の後期を代表する大冒険活劇である。この度は、廃盤DVDボックスを購入して初鑑賞したが面白い。


ジュール・ベルヌの小説を基にしたリプスキー後期を代表する傑作とされていて、溢れるノーブルなゴシック趣味やおとぼけギャグが見所である。やはり、彼に喜劇映画を撮らせたら絶品である。この作品も前作に引き続きヤン・シュヴァンクマイエルが特撮効果を担当している。ちなみに東京国際ファンタスティック映画祭87年にて上映されているそうだ。上映時間は99分と安定な時間で非常に見やすい。どこかしらエキセントリックで品のある映像が時折見せるキュートなキャラクター像や奇天烈なメカニック等が魅力的である。

さて、物語は結婚を目前にして誘拐された美貌の歌姫ヴェルデを思い悲嘆に暮れるオペラのトップ歌手テレック伯爵は、カルパチア王国へと旅に出る。途中立ち寄った村での噂から、テレック伯爵は村人からも恐れられている不気味な古城カルパテ城に、ゴーグ男爵に誘拐されたヴェルデがいるのではと言う希望を持って向かうのである。声は聞こえ、姿は見えども会うことのできぬ、そんな花嫁を無事救出できるのだろうか…。

本作は冒頭に、カルパテ王国の内部が写し出される。顔が映らずにソファーに座って葉巻を吸う男爵が後から捉えられる。カットは変わり、モニター越しから現実へと移り変わり、そこには2人の男が森をハイキングしている。途中で枯葉に埋もれている男性を見つけて、かわいそうだと思いお酒を出す。そこに骸骨のようなものが森を彷徨うショットが写し出される。だが、それは人形であり、馬車を引く教師のものであった。2人の男はその男に病人がいるから助けてくれと言う。

続いて、村人が一斉に集まりざわざわしている。テレック伯爵は村人の中の1人が病気になってしまい、苦しんでいるので外国の薬を差し上げる。そして城には奇妙な言い伝えがあると村人の老人が細かく説明する。それを食事しながら聞くテレック伯爵のショット、呪いの城に聞く御呪い道具を売りつけようとする不気味な男が捉えられる。彼は美貌の歌姫が誘拐されてしまっ為に、その古城へと向かうのだった…と簡単に説明するとこんな感じで、


うん、普通に面白いと思われる。ただツッコミどころが満載な映画である。一応舞台は19世紀との事だが、モニターや監視カメラ等がその時代にはまずないので、もはやそこで原作者のファンタジーが浮き彫りになる。歴史的事実を曲げてまでファンタスティックに作っているのだ。なので複雑かもしれない。んで相変わらずシュヴァンクマイエルの特撮が素晴らしい。もはや彼の映画といってもいいほどの中心的存在の要素の1つになっている。

彼の代名詞であるコマ撮りだったり、ユーモアがある風変わりな美術設定からシュールな要素もそれに加えられるだろう。メカのトリックが面白いのは良いのだが、主人公の男のオペラ?高音の声でガラスなどを割るシーンは耳障りだ。あのクライマックスの瓦礫と化す爆破は迫力がある。でも結局大団円はオペラの破壊力って言うオチも笑える。奇人変人しか出てこない映画と言ってもいいかもしれない。

そうそう、主人公のオペラのトップ歌手テレック伯爵が歌声で物を破壊していく場面を見ると、誰もがドイツ映画でパルムドールを受賞した「ブリキの太鼓」のオスカル君を思い出すだろう。そんな彼とお城の中に住んでいるマッドサイエンティストの男とのやりとりや、無意味な実験ばかりしているわりには、この場面ではその実験成果を使えるんじゃないかと言うところで、全く使わないで無駄にしてしまうところとか…突っ込めちゃうんだよな…。

そんで相変わらずの米国への憧れが映像として見受けられる。それは別にいいことだと思う。どこかしら寺山修司のような感覚も持っている作品だなと思った。といってもリプスキー監督の他の作品も大体寺山のようなシュールレアリスムの作家に多く見受けられる偏愛が映されている。この作品に限っては機械を偏愛する人間がいることだ。またチェコの伝統文化のからくり要素もあって良かった。

正直、ふざけた映画だけど演じている役者はみんな本気で頑張ってるんだろうなぁ。とにもかくにも奇想天外、ファンタジックコメディーの秀作だ。
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