ツクヨミ

國民の創生のツクヨミのレビュー・感想・評価

國民の創生(1915年製作の映画)
4.5
"アメリカ映画最大の恥"と呼ばれたD・W・グリフィス監督の問題作ここにあり。
1850年代アメリカ南部は黒人奴隷制度が根強くあり、それを良く思わない北部との間で"南北戦争"が勃発する…
D・W・グリフィス監督作品歴史大作。今作は南北戦争からリンカーン大統領暗殺事件を経由し"KKK(クー・クラックス・クラン)"誕生までを描いた歴史大河的ストーリーをどっぷり堪能できました。また今作は公開当時は興業的には大成功したものの、黒人を敵として白人至上主義団体KKKを英雄として描いたことから差別的だと評価された背景があります。確かに本作を見ると差別的に見ざるを得ない場面は多い…北部黒人が南部市民に結婚を迫り追いかけ回した末に南部娘が死亡、北部黒人が南部黒人を奴隷的服従をしたとしてリンチする、KKKが北部黒人を南部市民に暴力を働いたとして集団リンチする、このような血で血を洗うような激しい暴力的な事件が横行する。しかし全ての発端は北部白人が黒人を使って南部を支配しようとした施策が原因で黒人が主導したものではないのは確かだ、しかし一場面だけを切り取れば差別的に見えてしまう。D・W・グリフィス監督が南部出身で偏った見方をしているから出来た作品でもあるので、差別的な作品になるべくしてなったわけではないことを私は主張したい。
また本作は当時最初のアメリカ長編映画としても有名である。当時の映画のスタンダードは30分以下であるが、本作は180分を超える大作。映画技法としても大胆なクロスカッティングやクローズアップを多様し実に"映画"的な面白さを持つ秀作であろう。ラストにかけて行われるクロスカッティングを使った緊迫感溢れる展開は流石の一言である。
そして今作はストーリーとしても流麗な流れを持っていて3時間もあるのに飽きさせない。南北戦争を通して南部市民の北部に対する負の感情を描き、リンカーン暗殺が北部が南部を制圧に向かわせる要因を作り出し、北部の意思を背負わされた黒人が南部を支配していく過程でそれを良しとしない南部市民がKKKを組織し北部黒人と対決する。この流れはラストに向かってまっすぐ向かっていく話なのでラストが与えるカタルシスが凄まじい。まあ最後の愛に包まれる要素は蛇足であるとも言えるが、英雄が悪者を倒すヒーロー映画の原点的面白さを本作に見た。
世間的に見れば差別的な作品かもしれないが、この作品が与えた影響は負の側面だけではない。実に"映画"的な面白さを持った秀作であると私は言いたい。
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