ブラウニング監督×ロン・チェイニーの「三人」（1925）に次ぐ四作目。原題「The Black Bird」。

ロンドンのライムハウス街。悪漢ブラック・バードことダン（ロン・チェイニー）は隠れ蓑としてもう一つの顔“彼の双子で手足に障害を持つ松葉杖の司教”を演じ続けていた。ある夜、クラブの舞台で人形ダンスを披露するフィフィ（ルネ・アドレー）に惹かれたダンは客の女性のチョーカーを盗んで彼女にプレゼントしようと考えるが、会場にいた紳士泥棒エディに先を越されたあげくフィフィの心も奪われてしまう。。。

チェイニーが悪漢から善なる障害者司教への“変身”の楽屋裏を見せる。この演出は「ミラクルマン」（1919）でチェイニーが演じたニセ障害者と同様。プロットは「狂へる悪魔（ジキル博士とハイド氏）」（1920）の応用と言える。他の何者かに変身したいという大衆の潜在願望は100年前の本作やチェイニーの人気から見て取れる。それは現在も異世界モノというジャンルで引き継がれている。

本作の落としどころは、隠れ家を警察に踏み込まれ慌てて着替える悪漢のみっともなさにある。悪から善への改心は無く本人に天罰が下る結果となるが、彼の名誉を守ろうとした元妻の真心は光る。

チェイニーが素顔で演じ分けをしている為いつものような派手さはなく、物語の過程も三角関係の行方を追うという矮小なものではあるものの、二重生活を送る男の人間ドラマとしてはなかなか興味深い佳品。