オーウェン

ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔のオーウェンのレビュー・感想・評価

5.0
J・R・R・トールキンによる冒険ファンタジーの古典「指輪物語」を完全映画化した全三部作の第二部の「ロード・オブ・ザ・リング 二つの塔」は、三つに分かれた旅の仲間たちを待ち受ける、新たな出会いと壮絶な戦いを描いた心躍る作品ですね。

それにしても、この映画で幾つもの場面で見られた、黒澤明監督へのオマージュ、あらためて海外の多くの有能な映画監督へ与えた影響の大きさには驚かされますね。

「第一部は序章でしかなかった」という宣伝用のキャッチフレーズは伊達ではない程、第二部は、第一部と比較しても素晴らしい作品に仕上がっていたと思います。

前作の第一部では、必要であったキャラクターや物語の背景に対する説明的な部分が、この第二部では必要がなくなり、上映時間の3時間をたっぷりとドラマに注ぎ込めていたように感じました。

しかも、その3時間の大部分が、戦闘につぐ戦闘になっているから、物凄い迫力になっていて、まさしく、第二部にして、やっと真の戦いの火蓋が切って落とされましたね。

第二部では、三つのグループに分かれて旅を続ける様子が、三つの物語として構成されていますが、これによって、映画的なシナリオの広がりだけでなく、"中つ国"という魅惑的な空間が圧倒的に、その広がりを増して、我々観る者をその隅々にまで誘ってくれました。
これで、第一部で少し感じられた平板な印象が、完全に払拭されたと思います。

そして、これら三つの物語には、それぞれに深みがあります。
指輪を持ったフロド(イライジャ・ウッド)とサム(ショーン・アスティン)のチームには、ゴラムという新しいキャラクターが加わります。
指輪に心を蝕まれ、醜悪な姿へと成り果てたゴラムを見て、フロドにもある変化が生じていくのです。

想像を遥かにしのぐ指輪の邪悪な力。
フロドの心には、いつか自分もああなってしまうのかもしれないという恐怖心が芽生え、そうした気持ちから、ゴラムに対しても同情を示すようになります。

一方、フロドへの忠誠心が全てであるサムは、ゴラムを一切信用しようとしません。
こうして、この三人に"微妙な緊張関係"が生まれてくるのです。
これだけ大掛かりなスペクタクル映画にあって、このような"繊細な心理状態"まで描き出すとは、やはり、ピーター・ジャクソン監督はただ者ではありません。

メリー(ドミニク・モナハン)とピピン(ビリー・ボイド)のチームは、樹木の牧者エントを促し、サルマン(クリストファ・リー)の要塞オルサンクの塔を攻撃します。
そもそも、私がこの作品に魅入られた最初の理由は、オルサンクの塔の威容なビジュアル・デザインであり、ここでの攻防を期待していたからです。

それが、この塔に到達するのが、メリーとピピンのコンビだとは想像もしていませんでした。
この作品におけるメリーとピピンの二人の著しい成長は微笑ましくもあり、頼もしくも感じました。

それでも、やっぱり第二部屈指のクライマックスは、ヘルム峡谷の戦いである事は言うまでもありません。
セデオン王(バーナート・ヒル)率いるローハンの人間たちが、アラゴルン(ヴィゴ・モーテンセン)、レゴラス(オーランド・ブルーム)、ギムリ(ジョン・リス・デイヴィス)らと共に、オークの大軍と死闘を繰り広げる、映画史に残り得るほどの迫力あるダイナミックな場面です。

この戦闘における、かつてない"視覚体験"には、もう絶句してしまいました。
倒しても倒しても、屍を乗り越えて、うじゃうじゃと現われるウルク=ハイに、もう私の目は釘付け状態でした。

いかにも、「闇の軍団」といった無機質な風情は、不気味で仕方がありません。
そして、城塞戦における攻め口のディテールにも、物凄いリアリティが感じられ、その迫力を倍増していると思います。

これらの場面は、間違いなく、それまでに観た数々の戦闘シーンでも五本の指に入るほどの、究極の激闘シーンであったと思います。

そして、上映時間にして、1時間は経過したでしょうか、とにかく永遠に続くのではないかと思わせる死闘に終止符を打つのが、ガンダルフ(イアン・マッケラン)が率いて来たエルフ軍の助勢。
光を背負って、天から降ってきたかのような威勢を目にした時は、感動で体全体が打ち震えました。

荒々しさを誇示するヘルム峡谷の戦いに象徴される第二部は、悪の力の強大化を、これでもか、これでもかと言わんばかりに見せつける章であったと思います。

この全編を覆い尽くす激しいトーンは、この果てしない旅の最も苦しい部分を見事に切り取って見せていたと思います。
前へ進む事の高揚感をあおった第一部のエンディングとは一変して、サスペンスと緊張感を残して終えたエンディングも非常に印象深く感じました。

次回の最終章の「ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還」では必ずや実現するであろう旅の仲間たちとの再会が楽しみになって来ます。
そこには、どんなカタルシスが待ち受けているのであろうかと、思い描いただけでもワクワクして来ます。
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