阿房門王仁太郎

超劇場版ケロロ軍曹 撃侵ドラゴンウォリアーズであります!の阿房門王仁太郎のレビュー・感想・評価

4.5
 陰謀論乃至カルトと家族について話を伺う時に絶対思い出す作品で キルル三部作に押されがちだが相当の傑作。
 今回のゲストであるシオンは前々作のメール王子に連なる独善的な性格と行動をしているが彼女の行動はより観念的で感情が隠滅されている。その彼女の行動によりケロロ小隊は記憶の無い闘争の化身の様なドラゴンに変容するのだがそれは他者の自意識で自己の存在が否定され、一方向に動員されているようでホラーチックで現実的な比喩でもあろう。そのような彼女の行動の独善性や身勝手さを桃華は叱り、ケロロは記憶を軽んずる姿勢を訝しむのだが行動の結果を知った彼女を憐れみ助けようとするのも彼女達なのである。
 結局独善的な思いから発した社会的個人的な惨劇を回避する為に優しさや思いやりで以て身体を駆使して「誤った(孤独で傷つくだけの)」カルト的陰謀論的世界観の渦中で発揮する話であり(これは桃華の地球竜に対する「この分からず屋!」という叫びに表れている)シオンの「通じたよ。私の声、皆の思いが。居なくならないでって、これからも一緒だって。それでやっとわかったんだ、私は、私は独りぼっちなんかじゃないって」に象徴されるように、それは個人的なちっぽけでささやかな、歪みを湛えているが人を救えるのだ。
 正論に閉じこもる事を良しとせず歪み弱さを認めた上で誰かを救おうとするモンスターへの変身を許容した態度でなければ、人の心を動かす事は難しい。ある意味竜の書と言うディスコミュニケーション的な陰謀論を否定して『みんなあなたを愛してる』というコミュニケーション的な陰謀論を展開する話だと思う。
(追記:2021.06.06)
 人間の見る世界に事実は無く、銘々の感覚から歪んで取得された狭い世界の序列=真実があるだけであるが、それから目を逸らさずにそこからの絆(この言葉も上から言われ続けたから随分安っぽい言葉になってしまったのだが…)する作品で、『ケロロ軍曹』はアニメも原作も徹底してそういう家族の話なのでありある意味『アダムス・ファミリー』的な物語なのである。
阿房門王仁太郎

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