ヨウ

エンター・ザ・ボイドのヨウのレビュー・感想・評価

エンター・ザ・ボイド(2009年製作の映画)
4.3
俺たちはずっと一緒だ。永遠の約束を契り合った兄妹。違法薬物を嗜みながら今日も歌舞伎町を歩く。淫靡と狂騒が渦巻く空気感。昇天状態を保った心境。極彩色を基調とした目紛しいカメラワークが劇薬的世界観を創出し、息つく暇もない。予想だにしなかった悲劇。時間を遡って回想される痛々しい記憶。束の間の幸福と徐々に食い違う歯車。連鎖する悲痛な叫び。微かに見出される新たな光。過去と現在を交えて奏でられる狂気と悲哀の音に図らずも沁み入ってしまう。お前をいつまでも見守っている。最愛の妹へ向けられた兄の切なる思いは生死すら超越し、安らかな未来へと結ばれゆくのだ。強烈な映像美と空前絶後の演出のもとで紡がれた絆の物語に並々ならぬカタルシスを享受した。『クライマックス』のような胸糞卑猥映画を想像していたのだが、こんなにも切ない内容だったとは驚きを隠せない。鬼才ギャスパーノエが放つ珠玉の一作は私に美々しい余韻を残してくれた。イカれ要素と感動要素の匙加減がまさに黄金比。輪廻転生などの概念も絡み、非常に奥深い作風だということがWikipediaを読んでいてよく分かった。研究材料としても優れた一本である。全体を通して忘れ難い映画体験となった。あの約束を反芻しては涙が催される。二人の大切な思い出は永遠に…
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