カタパルトスープレックス

驟雨のカタパルトスープレックスのレビュー・感想・評価

驟雨(1956年製作の映画)
3.8
めっちゃ重い作品『浮雲』の翌年に公開された軽めの小品。成瀬巳喜男っぽい軽やかさがあります。

舞台は戦後の傷が徐々に癒えてきた東京の新興住宅地(梅ヶ丘周辺)です。登場人物は倦怠期を迎えた夫婦。化粧品会社で営業として働く夫を佐野周二が演じます、妻を演じるのが原節子。原節子は『めし』でも同じ倦怠期を迎えた夫婦の妻を演じましたね。

佐野周二演じる並木亮太郎は成瀬作品の中ではかなりマイルドな部類の「ダメな男」です。夢を諦めた元文学青年で仕事もリストラ寸前。それでも、家では威張っています。原節子はそんなダラシない(けど威張ってる)夫をたてます。原節子は小津作品では銀座でケーキとか買う余裕のある女性を演じることが多いのですが、成瀬作品では贅沢できません。

成瀬巳喜男作品の一貫したテーマは「女性の自立」です。前回の『めし』で原節子は夫から自立しようとして諦めてしまいました。世の中は彼女が考えるほど甘くなかった。今回の原節子はなかなか痛快です。会社をリストラになりそうになり、田舎に帰ると言い出す夫。元文学青年っぽく皮肉っぽい言い方がイラつきます。原節子を女性だと侮っています。それをピッシャっとはねつける原節子!いやー、すっきりしました。すっかり弱った夫にハッパをかけます。

成瀬巳喜男監督作品はクスッと笑わせる「くすぐり」のようなジョークを入れることが多いのですが、『驟雨』はその傾向が顕著です。「くすぐり」の多さが軽やかさを生み出してるんでしょうね。成瀬作品では不幸な女性には犬や猫がセットで登場しますが、今回は犬です。原節子が辛いときには野良犬の「ノラ」がやってきます。

この映画の欠点はとにかく音楽がうるさいこと。ボクは必要ないのに音楽が流れる映画があまり好きではありません。『驟雨』ではズーーーーーーーとピアノの演奏が流れます。これが邪魔で仕方ない。成瀬巳喜男は余計なものを付け足す悪い癖があるんですよね。今回の『驟雨』の場合は音楽でした。