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ピエロの赤い鼻の一人旅のレビュー・感想・評価

ピエロの赤い鼻(2003年製作の映画)
5.0
ジャン・ベッケル監督作。

フランスの田舎町を舞台に、ピエロになり観客を愉しませることを生き甲斐にしている小学校教師の哀しい戦争体験を描いたヒューマンドラマ。

『現金に手を出すな』(1954)『モンパルナスの灯』(1958)『穴』(1960)の巨匠ジャック・ベッケルの息子で、のどかで瑞々しい田舎の風景を完璧に切り取った『クリクリのいた夏』(1999)で知られるジャン・ベッケル監督による戦争・ヒューマンドラマの秀作。

フランスの田舎町で催されるお祭りにピエロの恰好をして観客を愉しませている小学校教師ジャックの知られざる戦争の記憶を、親友アンドレによるジャックの息子への回想のかたちで綴ってゆく。

生きる上で必要不可欠なヒントが込められた作品。戦争という困難な状況下で、ユーモアと勇気、そして希望を忘れず生きることの大切さを教えてくれる。戦争に対するそうしたアプローチの仕方は『ライフ・イズ・ビューティフル』(1998)に通ずる部分があるが、本作の特長は、戦時下だからこそ不可欠なユーモアや勇気を、被侵略者であるフランス人ではなくたった一人の勇敢なドイツ兵(敵兵)が死を覚悟に教えてくれるということ。戦争映画ではドイツ兵は徹底的な悪として描かれるケースが多いが、本作の場合、敵・味方の区別なく“戦争を嫌う”という一つの共通点によって心が通じ合ってゆくフランス人とドイツ兵の出遭いと束の間の交流、そしてその先に待ち受ける哀しく残酷な別れまでを映し出す。

“小学校教師のジャックがピエロになったワケ”を解き明かしてゆく作劇であり、次第に明らかにされる悲痛な理由に涙が溢れる。さらに、ジャックの息子はピエロになり人々に笑われる父親を恥ずかしく思い嫌っているが、父親の戦争の記憶を聞かされることで心情に変化が訪れてゆく。疎遠だった父親と息子の心の通じ合いも美しく感動的で、ここでまたしても涙腺が緩んでしまう。

ピエロの赤い鼻、その奥に隠された記憶を浮かび上がらせた名編。代表作『奇人たちの晩餐会』(1998)や『クリクリのいた夏』にも出演した演技派&個性派ジャック・ヴィルレの剽軽&哀切に満ちた名演が光る。
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