丹叉

Kids Return キッズ・リターンの丹叉のレビュー・感想・評価

Kids Return キッズ・リターン(1996年製作の映画)
4.7
周りに流されるままに人生を歩む若者の青春期がある意味で残酷に描かれていた。もちろん当時レベルの若者にも刺さるメッセージだろうが、今となっては目標もなく敷かれたレールを辿るだけの若者は更に増えており、その切れ味はより鋭くなっているだろう。
かつあげや授業妨害を繰り返す宮脇と高木、彼らと連む3人組、適当に就職し適当に転職するヒロシ、揃って明らかにお先真っ暗なのに、北野武の静寂で美しい画づくりと久石譲の青春時代の若者の純粋な心情を的確に表現する音楽とも相まって、なぜだろう、どこか希望があるかのような感覚で鑑賞してしまう。終了間際においても、
「マーちゃん、俺たちもう終わっちゃったのかなぁ?」「バカヤロー、まだ始まっちゃいねぇよ」とかの有名なセリフが吐かれるように、武の黄金期における作品に顕著な死による完結とは全く異なる。これは明らかに、1994年のバイク事故における、死の直面による死生観の変動が影響している。死を描いていた人間が、最も死に近づいた人間として、その新たな価値観を存分に反映させた、典型的な日本的青春映画とは一線を画す、希望と絶望で満ちた生々しい青春物語。
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