豚

Kids Return キッズ・リターンの豚のレビュー・感想・評価

Kids Return キッズ・リターン(1996年製作の映画)
4.5
落ちこぼれの高校生マサルとシンジの成長と友情を描いた青春ドラマ。
久々に、もっと早く観ておけば良かったと後悔した作品。
北野武の映画監督として手腕をまざまざと見せつけられた。

ぶっきらぼうに始まる物語、かつての友と思わしきふたりのどこかぎこちない会話、そして走り出すふたりとそれを追いかけるカメラ、そこから自然とふたりが切り離され、背景の白い壁に映し出される「キッズ・リターン」の文字……もうこの一連のシークエンス観ただけで鳥肌が立った。
個人的に映画のオープニングというものはエンディングと同じくらい重要だと思っているのだけれど、これほど切れ味鋭く、かつしっかりと意味を持たせているオープニングは早々ない気がする。
やっぱりアバンタイトルは短ければ短いほど、映画としてかっこ良いなと久々に感じた。

情感を揺さぶるキタノブルーの美しさと、あざとさすらも感じさせるほど高い完成度の久石譲の音楽、そこに若さゆえの無邪気さ、閉塞感を感じるふたりの主人公たちの人生が乗せられていく。
まさに夏の花火のような、瞬間瞬間の輝きとそれが消えていく切なさをフルトーンで描き切ったこの青春群像劇に、たまらなく感情を揺さぶられてしまった。
物語作品における一種の命題でもある"円環構造"にしっかりと則った作品でもあるけれど、ただ単に物語が円環しているだけでなく、マサルとシンジふたりの一見相反していながら絶妙にシンメトリックに描かれる成長と挫折の部分においてもこの構造が作用しており、さらに彼らと関わり合いを持った人物たちにまで及んでいる。
そして極めつけは監督北野武本人の死生観・人生観がそのまま投影されているという、表現者ならではの究極の円環構造に有無を言わされぬほど圧倒されてしまい、最後の最後まで目を離すことができなかった。

シンプルながら複雑な味わいを見せる物語、兄弟のようでいて相棒のようでもあるふたりの主人公、オフビートでどこか漫才のようなテンポのいい笑い、そしてあまりにも胸をえぐるラストシーン。
最初から最後まで一切の雑味なく、監督の作家性が貫かれた本作は、掛け値なしに傑作であると感じる。

時代ゆえの古さはありますが、そういったことを抜きにしても不変の価値を感じる素晴らしい作品だと思います。
とりわけセリフとしても非常に有名なラストシーン、ふたりの友情と人生を存分に味わいながら、最後の最後で描かれるあのシーンには、簡単には言い表せない多くの感情が込められていて、とても心動かされました。
かつて「あの夏、いちばん静かな海」評で"ヨーロッパのインディー色を感じる"と書いたことがあるのですが、さらに研ぎ澄まされた印象がありました。

ある種対称的な生き方でありながら、決定的な違いを持つマサルとシンジ。
儚くも愛しい彼らの人生とはなんだったのか、そしてどうなっていくのか、すべては観ている側に委ねられていますが、少しでも幸あれと願わずにはいられません。
豚