ブタブタ

白痴のブタブタのレビュー・感想・評価

白痴(1999年製作の映画)
4.5
1999年に確か渋谷の東急文化会館で見て以来の《公開20周年記念4Kデジタルリマスター版》を鑑賞。
何処にもDVDがレンタルしてなく(渋谷TSUTAYAにはあるみたいだけど)20年ぶり二回目の鑑賞。
紀里谷和明監督の『CASSHERN』を見た時「これ(手塚眞の)『白痴』だ」と思った。
過去か未来か曖昧な《日本》の戦時下。
焼け出された人々や真っ黒な兵士。
そして極彩色の明らかにこの時代にないテクノロジー。
其れと伊沢(浅野忠信)が撮った「風が吹いてるだけ」の8ミリフィルムの映像が『CASSHERN』の最後の方に流れるイメージ映像に似てて可也影響受けてると思った。
爆撃で焼け野原になった東京(?)の街。
それを見下ろす何故かブリューゲルのバベルの塔そっくりな《メディア・センター》
その中は外の惨状とは全くの別世界でバブル期のパルコのCMみたいなデザインの世界。
そしてそこではこれまた90年代の下らないフジのバラエティー番組みたいな国威掲揚のプロパガンダ番組が日夜作られている。
その主役は国民的美少女アイドル《銀河》で
我儘放題で誰も逆らえず、番組制作のディレクター(原田芳雄)はペーコラしながらも内心では銀河をバカにしきっている。
《銀河》をセンターに若い女の子集団による歌と踊りのミュージックビデオみたいな物が軍管轄下のプロパガンダとして繰り返し撮影され末期的状況の日本全国にタレ流されていて、何かAKBみたいな事を既にやってる(しかしAKBよりずっとクオリティは高い)
戦後無頼派の作家・坂口安吾の『白痴』が原作乍小説は文庫版で30頁程の短編を監督脚本ヴィジュアリスト手塚眞は2時間半の大作、スペタクル巨編として映像化。
メディアセンターで日々下らない番組制作に携わる伊沢の所に、隣りに住む「キチガイ」と「白痴」の夫婦の妻・サヨが転がり込んで来るという話しは原作そのままなれど、映画オリジナルキャラである《銀河》が実質的なヒロインだと思う。
当時17歳の橋本麗華の美しさとそのアイドル的な存在感は本当はヒロインであるサヨより出番も台詞の量も圧倒的に多くて完全に食ってた。
伊沢が住む長屋が立つ街が横に広がった九龍城というかカリガリ博士のセットというか、全ての建物が歪んでいるドイツ表現主義みたいな世界なのもアート。
実際に建てられたこのオープンセットを本当に燃やしたクライマックスは圧巻で、飛来するB29の編隊と雨霰と降り注ぐ焼夷弾。
下宿の娘が思わず「キレイ」って言うけど、何百って赤い光の尾を引いて空を埋め尽くす爆弾の光景は本当にキレイかつ恐ろしく、この「東京大空襲」をスペクタクル且つエンターテインメントとして描いたのはソクーロフの『太陽』と本作だけなのでは。
伊沢とサヨが爆撃で燃え盛る街を逃げるクライマックス、「世界の終わりは派手な爆発ではなくすすり泣きと共にやって来る」ではなくて、派手な爆発と大狂乱による世界の終わり。
特撮の爆発シーンみたいなオレンジの炎をバックに何故か突然現れポーズを決めながら炎に包まれるダンサーや銀河(本当にスーパー戦隊みたい)
そして伊沢とサヨが潜る「炎のトンネル」
このクライマックスは超圧巻で現代アートで最高です。
デジタルリマスター版がBluRay・DVD化されたら勿論買いたいです。
贅沢を言えば大作が軒並み公開延期になってる今ならシネコンの大スクリーンで上映して欲しかったです。
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