ツクヨミ

イントレランスのツクヨミのレビュー・感想・評価

イントレランス(1916年製作の映画)
5.0
4つの時代を越えた人間の"不寛容"。
20世紀初頭のアメリカ、処刑される前のイエスキリスト、バビロン国の崩壊、聖バーソロミューの虐殺、4つのストーリーは並行的に進んでいく…
D・W・グリフィス監督作品大作ドラマ。今作は異なる4つのストーリーを交錯させずに並行的にクロスカッティングの手法を用いて紡がれる映像に驚嘆しました。もはや全編クロスカッティングと言えるほどに冒頭は各舞台の説明をゆったりとクロスさせて描く、そして中盤からはクロスカッティングの頻度が増えて加速する展開と感覚が狭まるクロスカッティングが素晴らしい映像効果を生み出すのだ。またその他にもクローズアップ・フラッシュバック・ロングショット・マッチカットなどなど映画技法の教科書と言えるほど手法が多彩。1916年に作られた作品とは思えないほどクリエイティブでまさに"映画"だと言える。
そして今作のテーマはタイトルどおり人間の"不寛容(イントレランス)"に他ならない。20世紀アメリカでは大工場主が腹いせのために賃下げをして労働者を困らせる社会の縮図、イエスキリストの話では理不尽なでっち上げでイエスキリストが処刑され、バビロン国では神官が君主の異種神信仰を嫌い国を裏切り戦争が勃発、中世の時代には君主の母親が君主の異種信仰を認めず異教を物理的に全滅させる…全てに関して権力者の醜さ愚かさ、権力者によって弾圧され理不尽な被害を被る市民たちを描き出しておりグリフィス監督がクロスカッティングを多様してまで描き出したかったものはそこにあるのだろう。どんな時代にも共通する人間の本質を炙り出す本作は見るものの心を打ち砕く。
また今作はそんな人間の醜さを描きだすばかりではない、裏のテーマは人間の美しき"愛"でもある。20世紀アメリカでは可愛い娘と青年の深い愛に涙し、イエスキリストの話ではイエスの慈悲深き愛に感動し、バビロン国では山の娘の君主に対する愛と愛国心に心震わされ、中世ではブラウンアイズの普遍な愛に安心させられる。この要素はオープニングと作中何度も挟まる揺り籠を揺らす女性のメタファーである…揺り籠を揺らす女性は聖母マリアであり慈愛の化身。それはラストの慈愛が溢れる見方に直結し言いようもない幸福感と天に登るような素晴らしいラストを映し出す。こんな美しい余韻に包まれる作品があっただろうか。
クロスカッティングと怒涛の展開に圧倒され最後には素晴らしい幸福感に包まれる秀作。3時間の長さと比例して心地いい疲労感と満足感を得られる…これこそ映画の醍醐味でありD・W・グリフィス監督に拍手を贈りたい。
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