Omizu

古都のOmizuのレビュー・感想・評価

古都(1963年製作の映画)
3.7
【第36回アカデミー賞 外国語映画賞ノミネート】
『紀ノ川』中村登監督が川端康成の同名小説を映画化した作品。双子の姉妹を岩下志麻が二役で演じている。アカデミー外国語映画賞日本代表となりノミネートを果たした。

文芸映画を得意とした中村登監督、地味にアカデミー外国語映画賞に二度ノミネートされた数少ない監督の一人でもある。もう一方のノミネート作『智恵子抄』はソフトが出ておらず視聴困難な映画。

非常によかった。岩下志麻のハマりっぷりと川端作品に合った静かなトーンで紡がれる文芸作として一見の価値あり。

商家の一人娘として育った千重子だが、あるとき偶然自分そっくりの人物を発見する。彼女との出会いを通じて自らの生き方を選択することになる…

一人二役で演じた岩下志麻、純粋に撮影はどうやってやったのだろう。今ほどCGは発達していないはずだし…二人が同時に映るシーンも普通にあったりしてそれが気になった。

川端康成原作というのを上手くプラスにしている。中村監督のトーンと上手く合致したのだろう。非常に美しい語り口で好感を持った。

一人の男性をめぐる話であるが、ドロドロしたものは一切ない。千重子や苗子はしっかりとした心の持ち主で安心して観ていられる。「私は私」という姿勢を貫きつつ、揺れる心を上手く描写している。

かたや商家の娘、かたや両親を早くに亡くした孤児として育った身の上が難しい。その立場の差というのを否が応でも感じさせられる。簡単にはひっくり返せないその違いが切ない。

キネ旬ベストテンに入ってもおかしくないような秀作だと感じたが圏外の13位…まぁベストテンのメンツをみると納得ではあるのだが。何も起こらないといえばそうなのだが、川端原作作品に相応しい気品がある秀作文芸映画だと思う。
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