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学生野郎と娘たちのakrutmのレビュー・感想・評価

学生野郎と娘たち(1960年製作の映画)
4.2
女子寮に暮らす女子学生を中心に、ある大学の苦学生たちの生活をコミカルに描いた、中平康監督の青春映画。曾根綾子の小説『キャンパス110番』が原作となっているが、曾根綾子はこんな喜劇を書かないだろうから大きく翻案したのだろう、中平康監督ならではの軽快でテンポ良い台詞回しやカメラワークによって、当時の学生運動を真正面から取り上げた松竹ヌーヴェル・ヴァーグをはじめとする作品とは一線を画する、魅力的な喜劇に仕上がっている。新学長が打ち出した授業料値上げに反対して苦学生たちが立ち上がるという学生運動的なプロットも援用しつつ、それを脱深刻化することで、当時の学生運動をシニカルに描いているのも、爽快である。

クレジット的には、長門裕之と芦川いづみが主役となっているが、明らかに本映画の主役は、中原早苗である。行動派で歯切れの良い言動の女子学生役を演じる彼女のマシンガンのように繰り出される早口の台詞がとにかく素晴らしく,彼女の演技が本映画全体の軽快な雰囲気を形作っていると言っても過言ではないだろう。映画のラストで「うるせいぞ、ロッキード」と啖呵を切るシーンなどは、本映画のすべてを象徴している特に印象的なシーンである。こういう演技ができる中原早苗のことを中平康監督はたいそう気に入っていたそうであり、多くの中平作品に出演している。

一方、中原早苗と対称的な役を演じているのが、芦川いづみである。本作の後に撮影された『あした晴れるか』では、中原早苗や石原裕次郎とともにスピーディな言動の役に挑戦しているが、本作では、学生運動とは距離を置いた冷静な(冷めたと言ってもよい)女性を演じさせている。それでも、中平康監督は(意図的などうかは知らないが)芦川いづみの新しい面を引き出そうとしていて、本作では今までにない汚れ役を演じさせている。彼女がインタビューで話しているように、男性から頬に24回も平手打ちを受けるシーンなどは、実際に平手打ちをされたそうである。
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