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泥の河のtak6のネタバレレビュー・内容・結末

泥の河(1981年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

昔読んで面白かった「青が散る」と言う小説の原作者の宮本輝さんの小説が原作とのことで見てみました。
戦後10年経った昭和30年。世の中は神武景気で沸き返ってっいる世間の片隅で貧しい人々が助け合いながら生きている大阪の街が舞台です。
まだ幼い8才の主人公、板倉信雄少年(朝原靖貴くん)が、自宅近くへ停泊した船に住む家族と関わりあったことで大人に少し近づいたひと夏の体験を描いた映画です。
 こう書くとさわやかな酸っぱい思い出のような感じになってしまいますが、そういう場面もあるのですが、どちらかというと人が生きていく上での裏側やどうしようもないことへの諦めと苛立ち、自分への反省など成長のための痛みのような経験が多いと思います。
 船に住み友達になった喜一くん(桜井稔くん)、その姉の銀子ちゃん(柴田真生子ちゃん)。この3人の子供たちの演技がとてもいいんです。
上手いというんではなく、ぎこちなさも垣間見えるのだけれど入ってくるという感じです。
 喜一くん一家は、貧しい中でも、父親を事故で失ったことでより貧しい生活をしており、そこでも差別を受けていて、ひっそりと隠れるように生活しています。それが信雄くんと知り合い、人の温かさに触れて打ち解けていくところは温かい気持ちになります。信雄の家族も訳ありで、父親は戦争を引きずり妻をすてて信雄の母と一緒になっており、どこかしら世を捨てている様子があり、それゆえ、喜一一家に対しても優しくなれるのだと思いました。
 船に遊びに行き喜一の姉、銀子に靴を洗ってもらいその優しさや可愛さに、信雄が一瞬で初恋に落ちる様は初々しくてニンマリしてしまいます。
そう言えば1年生くらいの時、近所のお姉ちゃんのこと好きだったなぁ。
喜一が軍歌を一生懸命歌ったとき、おそらく小さな頃に亡くなった父親との数少ない楽しい記憶がそれであり、少ないがゆえに何度も繰り返すのでしっかり歌えるのではと思い、胸が締め付けられます。
また、銀子が信雄の母と風呂に入って楽し気に笑っている声を聴いて、喜一が「笑ってる」と驚いているシーンは、銀子も本当は小6の女の子で、本当なら屈託なく育っているはずが、貧しい家庭の中、母親代わりの家事をし、弟の面倒をみてしっかりしなければならないと行動していることと、母親の職業に思春期の女の子の嫌悪ややるせなさ、世間への気持ちなどあって笑顔など無くなってしまっていたのではないか。信雄の母のやさしさで少し気を緩められたのではと切なくなりました。
帰るときに、あんなに喜んで着たもらった洋服を返して帰ったのは、甘えちゃいけないとの線引きなのか、そして服を買えない母親に惨めな思いをさせないようにとの優しさではとも考えました。
 そして偶然に喜一の母の売春の現場を見てしまい、目が合ったことで信雄が夜に船に行ってはいけないと言われていたことなどが理解でき、喜一を今までのように見ることが出来なくなり避けてしまう葛藤も伝わってきました。喜一の母親(加賀まり子さん)の男に抱かれながら、信雄を見つめる目が寂しさと覚悟を表しているように感じました。
喜一一家が別の場所へと移っていくとき、懸命に追いかけても喜一に別れを伝えることもできず、船を見送った少年の後悔と寂しさが、少年を大人にするのではと感じました。
3.8に子供たちの演技で+5。4.3点

 
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