ともぞう

泥の河のともぞうのレビュー・感想・評価

泥の河(1981年製作の映画)
3.6
古い大阪の風景は胸を締め付けられるものがある。
自分が子供の頃、貧しさと戦争の傷跡はまだまだ生々しくあった。
夫を亡くしたシングルマザーはまともな家にも住めずに船宿に住み、そこで売春をしながら2人の子供を育てている。
無邪気な弟と11才でいろんなことが分かりつつあるが、全てを胸に納めている姉。姉役の女の子の悲しげな目。その子がお風呂に入れるシーンで唯一楽しそうに笑う。
そして、信雄が友達の母親の売春シーンを見てしまい、涙を流す。人知れずその場所を去って行く3人の親子。切な過ぎて、胸が痛くなる映画。
あと、加賀まりこの美しさと田村高廣と藤田弓子は優しい両親を自然に演じ、素晴らしかった。

〈あらすじ〉
朝鮮動乱の新特需を足場に高度経済成長へと向かおうとしていた昭和三十一年。河っぷちの食堂に毎日立ち寄っていた荷車のオッチャンが事故で死んだ。ある朝、食堂の息子、信雄は置き去りにされた荷車から鉄屑を盗もうとしていた少年、喜一に出会った。喜一は、対岸に繋がれているみすぼらしい舟に住んでおり、信雄は銀子という優しい姉にも会った。信雄の父、晋平は、夜、あの舟に行ってはいけないという。しかし、父母は姉弟を夕食に呼んで、暖かくもてなした。楽しみにしていた天神祭りがきた。初めてお金を持って祭りに出た信雄は人込みでそれを落としてしまう。しょげた信雄を楽しませようと喜一は強引に船の家に誘った。泥の河に突きさした竹箒に、宝物の蟹の巣があった。喜一はランプの油に蟹をつけ、火をつけた。蟹は舟べりを逃げた。蟹を追った信雄は窓から喜一の母の姿を見た。裸の男の背が暗がりに動いていた。次の日、喜一の舟は岸を離れた。「きっちゃーん!」と呼びながら追い続けた信雄は、悲しみの感情をはじめて自分の人生に結びつけたのである。船は何十年後かの繁栄と絶望とを象徴するように、ビルの暗い谷間に消えていく。
ともぞう

ともぞう