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カイロの紫のバラのヨウのレビュー・感想・評価

カイロの紫のバラ(1985年製作の映画)
3.9
現実世界と映画の世界の垣根を超える奇想天外なラブロマンス。

ウエイトレスとして家庭を支えるセシリア。横暴で浮気性、そして失業中というクソ要素満載の夫。心からの喜びを感じられない結婚生活。どうしようもない状況から逃れるようにして映画館を唯一の拠り所とする日々。『カイロの紫のバラ』という上映作品の登場人物・トムへの思慕を強めていく。そんなセシリアの純粋な想いが以心伝心し、スクリーンを超えてトムが彼女の元へやって来る。。

誰よりも深い愛情と優しさをかけるトム。人妻としての貞操を守りながらもどんどん彼の虜となるセシリア。穢れのない澄み切った心を通わせ合う二人。ロマンティックの究極形態ともいえる二人の恋模様に骨抜きにされてしまった。余りにも美しい純愛のカタチは神聖不可侵とも思えるくらいに尊い。初めて降り立った現実世界を何らバイアスもなく見つめるトムの仕草や言動は非常にキュートであり、尚且つ我々も見習うべきところがある。

世界で一番至福な時間を共にする二人。だが次第に苦い現実が牙を剥き始める。中断される上映。打撃を受ける興行。演じた俳優へのとばっちり。。一筋縄では解決できない諸問題が絡み合い、運命の悪戯に翻弄される。(とはいえ二つの世界でコンフリクトが起こる様は非常に滑稽であるのだが。😂 シュール過ぎる展開には抱腹絶倒してしまった)

甘美な夢の終着点に待ち受ける儚き顛末。散々な目に遭うセシリアの境遇を思うと胸が張り裂けそうになる。あの結びはバッドエンドなのだろうか、はたまたハッピーエンドなのだろうか。。観客に解釈を任せるやり口はなかなか巧妙である。原点回帰を果たしているという意味では彼女に救いは残されていると信じたい。

多幸感いっぱいの雰囲気のもとで紡ぎ出されるロマンティックコメディは誰の胸にも美しい思い出として刻まれるに違いない。虚像は現実を必要とし、現実は虚像を必要とする。二つの対概念における共依存の関係性はなかなか含みがあって面白い。大学のとある授業でも取り上げられていた映画であるので研究材料としてもうってつけなのであろう。映画史に影響を与え続けるウディアレンの力量は計り知れない。
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