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鏡のbennoのレビュー・感想・評価

(1974年製作の映画)
4.7
タルコフスキー監督作品5作目。

主人公は幼少期のタルコフスキー監督…彼自身の断片的な出来事とソ連の歴史や宗教、芸術など様々な記憶が交錯します。

記憶には秩序は無く、不連続で曖昧です。勿論その中にストーリー性はありません。

それらの映像を映像絵巻のようにした作品です。

草原や林を吹き抜けていく風、一斉に草を薙ぎ倒します…その映像だけでも素晴らしく息を呑みます…

燃え盛る小屋とそれを見つめる人々との構図…

水が滴る部屋の中を徘徊する母親像…

少年時代の雪の中の射撃練習場…

唐突に挿入される戦争記録…

…などなど、挙げたらキリがないですが、映像ひとつひとつに惹きつけられます。

イメージ優先の中にも母親(過去)に対する懐かしい愛情と妻(現在)に対する疎外感の対比は見て取れます。
『惑星ソラリス』でも母と妻の葛藤があったように、母親=ノスタルジーが見えてきます。
そしてタイトルにもあるように2人の関係は常に鏡像関係。共鳴したり、反射したり…

2回目の鑑賞ではっきりしたのですが、母親と妻が同じ女優、監督の子供時代と息子も同じ子役が演じています。混乱してしまうのも当たり前で、これも鏡像に見せるための演出なのでしょうか?

日常生活の中にはふとした瞬間に幼少期の断片的な事を思い出したり、忘れていた風景が蘇ることは誰にでもあります。

監督自身がそれらを具現化、再構築した作品と言えます。また、熟成させて再鑑賞したいと思います。
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