1930年代〜40年代に活躍したピアニスト、エディデューチンの伝記映画。
監督は「錨を上げて」や「ショウボート」のジョージシドニー。
この頃よく作られていた伝記物ミュージカル作品同様、本作も家族愛を中心とした物語で音楽に力が入っている。
薬剤師として生計を立てていたが音楽への夢を諦められずニューヨークへやってきた主人公は、小さなチャンスを掴み音楽家として成功してゆく。
最愛の人とも出会い順風満帆に見えた彼の人生だったが、その幸せは長くは続かなかった。
ある時は手に入れ、またある時は失うことを繰り返したその果てに彼が選んだ選択とは。
主演のタイロンパワーはいくつもの演奏シーンをこなしており、おかげで見応えのある出来栄えになっている。
特に「ブラジルの水彩画」のシーンでは、あえてピアノ部分に表情と手元を反射させて余すところなく演技を見せる徹底ぶりである。
ドラマ部分にもしっかり時間を割いており、主人公の葛藤を描く重要なシーンではここぞとばかりにBGMを抑えセリフに集中させている。
全編を通してショパンのノクターンをアレンジした「To love again」が何度も使われ、喜怒哀楽を表現しているのも演出の特徴。
このピアノはカルメンキャバレロというデューチン本人と同時期に活動していた方が吹替をしているそうで、こうして当時の音色が再現されている。
元々ギャグシーンは多くない作品だが、これによって一段と品が出ている。
ロケ撮影を用いてニューヨークの街ごと舞台にしたり、印象的な引きのショットがあったりとカメラワークも凝っている。
大作に相応しい重厚感のある一本。