アンダーシャフト

人狼 JIN-ROHのアンダーシャフトのレビュー・感想・評価

人狼 JIN-ROH(1999年製作の映画)
4.0
童話「赤ずきん」の寓喩を織り込んだ、切ない余韻が心を打つヒューマンドラマ。

昭和を想起させる街並みと人々のファッション、その場の冷気すら感じさせる澄んだ青空、冬雨に煙る道の向こうから走ってくる路面電車の灯火…あまりに細密でリアルなディテールに、これが手描きかと言葉を失う。風景にも、人物の動きにも、地面に降る薬莢にも、徹底した作り手のこだわりを感じる。これが20年前の作品とは…ホントすごいの一言。

ドイツ▪イタリアvs日本▪イギリスによる第二次大戦での敗戦後の日本(東京)が舞台。(もちろん設定はフィクション)
凶悪犯罪や学生デモが頻発し、その影で過激派「セクト」が暗躍する不穏な日常が続く中、今日も街頭で学生デモが発生。警視庁機動隊と「首都圏治安警察機構(首都警)」が、それとにらみ合っていた。その時、デモ隊が使用する火炎瓶とは格段に殺傷力の異なる投擲爆弾が炸裂し、機動隊は一斉に鎮圧を開始。一方、デモに混じったセクトを追って、首都警は行動を開始していた…
という始まりで、この後、地下道でのセクト殲滅の最中に、首都警特機隊隊員の一人がセクトのメンバーである一人の少女と出会います。投降するよう命じられた少女は、自ら爆弾のピンを抜き、隊員の目前で爆死。この時一命を取り留めた青年隊員、“伏 一貴”にフォーカスしながら物語は進みます。

警視庁と首都警の確執、自治警▪特機隊▪公安部の勢力争い、駆け引き、策略、密約、裏切り…組織の綱引きに翻弄されながら、伏は自分の居場所にたどり着く…ってこれ、アニメのストーリーかよっ!と思うような濃度の濃い話。極端な起伏が少ない展開で、登場人物の思惑と、伏の感情の揺れ動く様がリアルに表現されています。

この物語を象徴する装甲服。ヘッドギアの下の赤い両眼は、人の感情をギアの呪いに封じられたような、冷酷な凄みを感じました。
謀略物のちょっとややこしい話に抵抗のない方なら、観て損は無し!!日本のアニメの完成度の高さを改めて実感できる名作です。