【1970年キネマ旬報日本映画ベストテン 第10位】
新藤兼人監督作品。1968年に連続殺人事件を起こした永山則夫を題材につくられた作品。主演は新人だった原田大二郎、その母を乙羽信子が演じている。
新藤兼人らしいリアリズムに基づくドライな一作。主人公が連続殺人を行う道程、その母と家族の苦労を描いている。
田舎から集団就職で出てきた道夫の心が曲がっていくのが辛かった。博打に明け暮れ帰ってこない父、貧しいのに子供を産み続ける母、一日に二度レイプされ気が狂った道夫の姉…あまりにも悲惨。それらに加えメディアの残酷さも。
じわじわと追い詰められていく道夫をみているだけで胸が苦しくなる。慈愛に満ちてはいるが、子供をコントロールできない母を演じた乙羽信子もいつもながら素晴らしい。
ドライな語り口ながら心にズシンとくる一作。道夫をとりまく社会があまりにも残酷だ。今にも通じる現代社会を痛烈に切り取った鮮烈な作品。